古着に命を吹き込む
全ての写真:三浦 安間
「再びクラフトされた」という名の製品
「リクラフテッド」製品の販売がスタートしているという。以前、鎌倉リペアセンターを取材したときに、「近い将来、日本支社でも実現したいですね」と聞いていた「Worn Wear」プログラムのひとつ。ついに日本でもスタートしたこの新たな試みを見せてもらいに、再びパタゴニアのリペアセンターを訪れた。
「リクラフテッド」。カタカナでは少々わかりにくいが、「Re – Crafted」と書けばどうだろう。「再びクラフトされた」製品。要はカスタマーから回収された使い古しの古着や、初期不良などによって販売できなかった製品に手を加え、新たなアイテムとして生まれ変わらせることだ。
では、「リペア」と何が違うのかといえば、リペアは元の形や機能に戻すことに限りなく忠実なのに対し、こちらはもう少し自由度が高く、なによりクリエイティブである。たとえば、穴が開いた服にカラフルなパッチを当てたり、あるいは当て布の代わりに小さなポケットを縫い付けてみたりと、むしろ修理した個所がデザイン上のアクセントとなり、元の製品にはなかった個性を放つようになる。手を加える個所や修理内容はすべて異なるため、できあがったリクラフテッド製品は、どれも世の中にひとつしかない一点モノ。この希少価値性も大きな魅力である。

加工と検品を終えた製品は「RECRAFTED」専用タグが縫い付けられて出荷を待つ
日本ではまだ始まったばかり
アメリカのパタゴニア本社でこの「リクラフテッド」プログラムが始まったのは2019年のこと。ニューヨークの外部デザイナーとのコラボレーションによるデザイン要素の高いアイテムが大いに話題を集めたという。中古ウェアとはいえパタゴニアのロゴが付いた正規製品であり、なおかつ、既存のラインアップでは見ることのない個性的で稀少な一点モノ。手を入れた個所が多い場合などは加工代がかさみ、結果、元の製品価格より高価になることもあるという。それでも引く手あまただというのもよくわかる。日本支社でのスタートは2022年からで、販売自体も2023年6月の京都店でのポップアップストアが最初と、まだ日が浅い。その当初から関わってきたのが、リペアサービスとリクラフテッドを兼任する木村友見さんだ。
「最初は前任者を引き継ぐ形でスタートし、少しずつ整ってきて現在の3人体制になったのは、2023年夏からです。とはいっても、まだまだリソース的にはまったく足りていないので、アメリカ本社のような大がかりなことはできていません。日本ではまだ始まったばかりですからね」
木村さんの言う「リソース」とは、文字通り、資材であり人材であり時間である。リペアセンターに寄せられる要修理品は増加の一途で、縫製スタッフのキャパシティに余裕があるわけでもない。また、日本では中古品の買取プログラムがスタートしたばかりで、直営店などで回収された使い古しの製品も数に限りがある。そうした条件下でスタートのためか、現在は木村さんを含めた3人のスタッフはいずれもリペアの仕事と兼任しており、週に2日間に限ってリクラフテッドの仕事に就いている。
「縫う人はもちろん、デザインの力を加えてくれるメンバーや、人に伝えるスキルを持った人も必要です。でも、そうなると今度はリペア業務のほうに影響が出てしまうので、今は三人とも兼任というかたちで並行して仕事を進めています」
普段は縫製スタッフとして勤務する鈴木千草さん。この日は週に2日間の「リクラフテッド」兼任日で、現在、穴の開いたショーツを再生中
日々のリペア業務で培った縫製技術を存分に発揮できる点もメリット。1日2点までというガイドラインを設け、高い完成度を維持している
左が加工前で右が加工後。右ポケットに開いた穴にパッチを当てて強度を回復し、上からカラフルな当て布を縫い付け、同じ柄をベルトループにワンポイント。左ポケットには「Worn Ware」タグが付いている
神奈川県鎌倉市にあるパタゴニア日本支社・リペアセンター。「リクラフテッド」製品もここで手がけられている
チームリーダーの木村さんは文化服装学院出身で、卒業後はアパレルメーカーで企画や営業、生産の現場に携わってきたという経歴の持ち主。転職のきっかけも、大量生産、大量消費、大量廃棄というアパレル産業のサイクルに疑問を抱いたことだった。
「この業界に自分が関わり続けていくことになんとなく違和感を抱き、ちょっと立ち止まってしまったんです。せっかく労力をかけるならクオリティの高いものをつくりたいし、やはりずっと着続けてほしいじゃないですか」
そんなときにリペア部門の求人を目にして転職を決意したという。
「そこでピンと来て、あらためてパタゴニアのことを自分なりに調べてみたのですが、そのなかで創業者のイヴォン・シュイナードの記事が心に刺さったんですよ。この会社ならやり甲斐を感じながら働くことができるなって」
現在、木村さんは職場のある鎌倉に移住し、波があれば、出勤前や昼休みの時間を使ってサーフィンを楽しんでいるという、まさにパタゴニア創業者の著作『社員をサーフィンに行かせよう』を地で行くライフスタイルだ。
「パタゴニアのリペアセンター勤務になれば、今まで以上にサーフィンができるなという期待もありました。いや、正直に言うと、それも転職先を決めた大きな理由だったんですけどね(笑)」
ロングボードに最適なこの日の鎌倉の波を楽しむ木村さん。サイズは小さいが面はクリーンで、昼休みの波乗りとしては上々だ
仕事場からサーフポイントまで自転車でわずか数分。昼休みに軽く1ラウンド波に乗り、急いで帰社して服を着替え、濡れた髪のままミーティングに出ることもある
こうして古着のイメージは一新される
木村さんたちリクラフテッド・チームの三人は、月に一度、倉庫を訪れ、集められた大量の古着の中から、リクラフテッドの可能性の高い素材をピックアップする。それが仕事の最初のステップだ。
「そのときの状況によっても変わりますが、前回行ったときは、古着のパレット3枚が2段になって積まれていました。その中から私たちがピックアップしたのは大きめのケース6つ分、点数にして100から200点ほどだと思います」
倉庫に集められているのは、直営店のリサイクルボックスなどで回収されたパタゴニア製品に加え、中古ウェアとして販売するには修理が必要な製品もある。だが、中古ウェアのリペアまで手が回らないという事情もあり、大半はリサイクルに行く運命にある。
リペアセンターに集まった「リクラフテッド」の素材となる着古された製品
倉庫から持ち帰った「素材」は、いくつかのカテゴリーに分けられて棚に収まり、作業を待つ
とはいえ、リサイクルするにもそれ相応のエネルギーが必要であり、一般的にはリサイクルされるよりも埋め立て地や焼却炉に送られる衣類のほうが圧倒的に多い。したがって、人の手で直して使えるようになるなら、それにこしたことはないのである。
倉庫からピックアップした着古された製品はリペアセンターに持ち帰り、修理が必要な個所を確認しながら、どんなデザインを施すかを決めていく。その際、単純なファスナー交換で済むものだったとしても、あえてアクセントを加えることで、使用感の著しい着古された製品のイメージは魔法のように一新される。それはまさに、リクラフテッド効果だろう。
この日に作業する「素材」を棚から取り出す高橋亜里紗さん。リクラフテッド担当になってまだ日が浅いが、すでにこの仕事に大きなやり甲斐を感じている
リペアセンター内でリペアを待つ修理品の棚に混じって、「リクラフテッド依頼待ち棚」がある
着古した製品を手に取って、「どう直し、どう仕上げるか」をイメージする時間こそ、この仕事のハイライト。カラフルな当て布のストックを横に置き、想像力を膨らませる木村さん(右)と高橋さん(左)
ハンドワークとアップサイクル
現在、日本支社のリクラフテッド製品は、大きく2種類に分けられる。ひとつは「ハンドワーク・コレクション」と呼ばれる一点モノ。修理によって元の機能に回復させることに主眼を置いたリクラフテッドで、基本的にシャツはシャツに、パンツはパンツとして着用できるアイテムになる。今のところ、アメリカ本社のように二着を解体して一着に仕立て直すような大がかりな加工はめったにないが、むしろワンメイク的なハンドワークが手作り感ある暖かみを醸しだしていて好印象ですらある。
加工の方向性が決まったら、「加工依頼書」にイラストと文字で仕様を記入。これがあれば担当者三人以外のリペアスタッフにも加工を委ねることができ、なおかつ、稀少な「一点モノ」の記録にもなる
穴の開いた膝にチェック柄の生地を当てたパンツ、擦り切れた手首に色違いの布を当てたたシャツ、切り返し部のほつれた縫製を直してワンポイントを加えたウインドシェル。いずれも「ハンドワーク・コレクション」から
もうひとつは「アップサイクル・コレクション」。こちらはシェル素材のパッチワークで作ったカラフルなサコッシュや、バギーズ・ショーツを仕立て直した手提げバッグなどがある。着古されたシェルは3層生地やシームテープが剥離したものも多く、それらはリペアセンターでも修理が不可能だ。そこで、剥離していない部分を切り出してパッチワーク材料にすることで、できるだけ無駄なく生かすことができる。
一方、バギーズ・ショーツは1982年の誕生以来大きなデザイン変更はなく、さまざまなカラーや柄を生み出してきた。
「バギーズのように長年にわたって同じ形で販売されているものは、同じ形の素材がたくさん集まるという傾向があります。そこで、そういうものをひとまとめにしてアップサイクルできないか、と考えたのがはじまりです」
アップサイクル・コレクションは、基本的に型紙を使ってパターンを起こすことで再現性が高く、短時間で多くの処理ができることから、スタッフは便宜的に「量産型」と呼んでいる。もちろん、過去に登場したシェルのカラー数を思えば、パッチワークの可能性は無限大。バギーズ・ショーツにしても、40年分の柄やカラーバリエーションから組合わされるわけで、量産型といっても限りなく一点モノに近い仕上がりといっていい。
着古されたシェル生地のパッチワークで作られたサコッシュ。よく見ると同じパターンを採用していることがわかる
こちらはバギーズ・ショーツをリメイクした「アップサイクル・コレクション」。ボタン付きの”元ヒップポケット”がアクセントになっている
元通りに直らなくてもクールだよね
衣料全体の寿命を9カ月間延ばせば、炭素排出量と廃棄物、水の使用は、それぞれ20から30%削減できるといわれている。そこでパタゴニアでは製品の品質と性能、なかでも耐久性にこだわり、なおかつリサイクルできる製品を作ってきた(リサイクル素材の採用と、製品自体がリサイクル可能かどうかは別の話だ)。
一方で、販売した後の製品の行方にも気を配り、「モノを長く使い続けて、地球全体の消費を減らす」ためのさまざまなアイデアを提案している。これが「Worn Wear」プログラムの基本的な考え方で、その柱となるのが「リペア」と「リユース」。修理して長く使い、不要になったときは必要な人に譲る。それでも寿命が尽きたときは、原料レベルに戻して再利用する。それが最終手段の「リサイクル」である。
「分ければ資源、混ぜればゴミ」。故障したファスナーは集められてリサイクルに回される。
ミシンにセットする縫製糸を選ぶためのサンプル。「リペア」では元の製品に忠実な色を選び、「リクラフテッド」では自由な発想で色を選ぶ
さまざまな縫製糸や残反、パーツが揃っているのもリペアセンターの特長。そのリソースを存分に使えることも「リクラフテッド」製品のメリットのひとつ
その一連の流れのなかにあって、リクラフテッドの役割は、廃棄処分に向かう着古された製品を一点でも多く救い出すことにある。とはいえ、ハンドメイドの一点モノという性格上生産性は非常に低く、廃棄物削減効果としては薄い。それではリクラフテッドには、いったい何が期待されているのだろうか。
「『新品よりもずっといい』というのはWorn Wearのコンセプトですが、そのなかでリクラフテッドが伝えたいことには、『元通りに直らなくてもクールだよね』、というメッセージが込められていると思うんです」と木村さんは言う。
リペアを終えた製品は、直した個所もわからないほどのクオリティで戻ってくる。だが、リクラフテッドの場合は、逆に修繕個所が一目瞭然で、その楽しげで遊び心あふれるスタイルに触れる機会が大事だ、と木村さんは感じている。
「やはり、修理を依頼するカスタマーは何ごともなかったかのように直して欲しいというニーズが高く、リペアスタッフはその要望に応えるべく完璧に直すことを目指しています。けれども、それを実現させるには高い技術や経験が必要で、結果的に修理のハードルは上がってしまいます。それに対して、『完璧じゃなくてもいいから、直して長く着ようよ』というのがリクラフテッドのスタンス。あ、これなら自分でも直せるかなと気づいてもらえるかもしれませんし、修理をもっと身近に感じてもらえるかもしれない。そのメッセージを広く伝えることが私の仕事だと考えています」

着古された製品に愛を注ぐ「リクラフテッド」担当の三人。左から鈴木さん、木村さん、高橋さん。パタゴニア・リペアセンターにて
リクラフテッド製品は、パタゴニア東京・渋谷にて期間限定で開催している「 Worn Wearポップアップストア」で販売しています。
■ 期間
2024年5月24日(金)~ 2024年8月4日(日)
営業時間:11:00~19:00
定休日:毎月第3水曜日
■ 会場
パタゴニア 東京・渋谷
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-16-8