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地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

パタゴニア  /  2015年11月24日  /  読み終えるまで11分  /  スノー, アクティビズム

登高に備えて荷造りするリアとジャスミン。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州セルカーク山脈 Photo: Garrett Grove

ブリティッシュ・コロンビア州南東部に暮らすジャスミン・ケイトンリア・エバンス。ケイトンはスキーガイド兼ヴァルハラ・マウンテン・ツアリングの共同経営者、そしてエバンスはレベルストークにあるフリースタイルスキー・プログラム「ガールズ・ドゥ・スキー」の創設者兼ディレクターとして働いています。ケイトンは子供のころからバックカントリースキーに親しみ、エバンスはフリースタイルスキー競技にハードに打ち込んできたという経歴の持ち主です。近年激しい論争が繰り広げられ、スウィート・グラス・プロダクションの新作映画『ジャンボ・ワイルド』にフィーチャーされたジャンボ・グレイシャー・リゾート開発案の建設予定地をみずからの目で見るために訪れた、ジャンボ・グレイシャーのバックカントリーでの8日間のスキートラバースを終えたばかりの2人に話を聞きました。

この旅以前には一緒にスキーをしたことはなかったそうですが、2人の相性はどうでしたか?

ジャスミン:知らない人との旅は「うーん…」という感じのこともあるんですが、今回は間違いなく大正解でした。リアと一緒にいるとよりエキサイティングなことに挑戦したくなるんです。私たちのスキルは互いを補うのにぴったりで、多くを分かちあうことができました。

リア:そうなんです。ジャスミンはバックカントリーの経験が豊富だから、私は彼女のやることすべてをしっかりと見ていました。バックパックにしても、ジャスミンがこうしているから私も同じようにしよう……とか。彼女からできるだけたくさんのことを学びたいです。

ジャンボ・グレイシャー・リゾート開発案が実現した場合の建設予定地を見に行かれたわけですが、それについて説明してもらえますか?

リア:これまでの生涯、色々なビッグマウンテンでスキーをしてきましたが、ここの地形は本当に「うわーっ、巨大!」っていう感じです。そしてこの谷にスキー場を設置するというのはまったく理解できません。森林消防士をしていたとき、ある原野で2年間枯枝や下枝を拾う作業をしながら樹木の1本1本について学びました。でもやがて開発者がやって来て、そこの木々は伐採されてしまいました。そのときはじめて、私にも環境保護活動家の気持ちがわかりました。ジャンボ・リゾートの企画者たちが実際にあの地面を歩いたことがあるのかどうか、つくづく知りたいものです。

ジャスミン:まったく同感です。開発案を見て、それから実際に自分の目でその地形を見たんですが、この計画はとにかくすべての要素が理にかないません。広大な氷河は激しい起伏とごつごつの岩だらけで脆いし、スキーリフトの建設予定地も非常に険しく、巨大な氷瀑で終わるラインもあります。仮に実現を望む側にいたとしても、このリゾートは失敗の運命にある、そうでなくてもものすごく中途半端で、期待通りの成功は望めないと感じます。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

ローカルのスキーヤーやスノーボーダーたちの大半がジャンボ・グレイシャー・リゾートの建設案に反対している。彼らはすでに地元にあるリゾートでリフトに乗るか、みずからの力や経験でバックカントリーへと旅することの方を望んでいる。Photo: Garrett Grove

2人ともスキーで生計を立てていますが、どちらもまったく別の道を歩む可能性もありましたよね?

リア:私はカナダのロスランドで育ち、フィールドホッケーの奨学金をもらってアメリカのバージニア州の大学に入りました。でも胸の内では何かピンとこなくて、私が心底から熱中できるのはやっぱりスキーでした。

ジャスミン:私は学業が生活の大部分を占めていて、大学で水文地質学を専攻するための素晴らしい奨学金を受けましたが、それでも山からすっかりはなれることはありませんでした。そして科学的な仕事では見出せなかったやりがいを、ガイドの仕事で見つけました。これは自然や原生地域への関心を表現する、私なりの方法なのだと思います。ガイドなんてうわついた仕事のように見られるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

この日、最後の仕上げ。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州のジャンボ峠を滑るリア・エバンス。Photo: Garrett Grove

お客様には環境に感謝して楽しむだけでなく、それを保護することも奨励しているのですか?

ジャスミン:気持ちが新鮮なうちに人びとの心をとらえ、自然との適切な関わり方を示すことが私の仕事のとても重要な部分です。この場所で遊ぶのだから、それを正しくやる必要があります。毎年のようにやって来るお客様もたくさんいますが、年々彼らが気候や雪に対する理解とつながりを深めていく様子がわかります。

リア:私には何か特別なことをしているという意識はありません。それがありのままの自分なのです。教える側として、その場所との関わり方を身をもって示しているだけです。いまはバックカントリーとのつき合い方を変えようとしている人たちのコミュニティがあって、とてもわくわくする時代を迎えています。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

ジャンボ・グレイシャー・リゾートの建設案に「ノー」と言うテディベアのシオドア。Photo: Jasmin Caton

近頃のスキー映画はバックカントリーの極端な側面に焦点を当てているものが多いように見えますが、静寂や広がりはバックカントリーの実体験で大きな部分を占めると思いますが、どうでしょうか?

リア:フェイスブックやツイッターや、とにかくあらゆることのスピードに皆がうんざりしはじめ、ちょっとプラグを抜きたい気分になっていると思います。山に来て、スキーブーツを履き、歩き出す。そうした行為にはとても有機的な何かがあり、それは静かだけれどとても大きな影響力を秘めています。今回私たちがやったトラバースのような旅から戻ってくると、携帯電話の電源を二度と入れたくなくなってしまうほどです。

ジャスミン:私が何度かガイドしたことのあるグループの話で、彼らはキャットスキー(雪上車を利用するスキー)以外はしなかったんですが、今年はじめて1週間のツアリングをやりたいとリクエストされました。まったく予想外でした。肉体的にはかなりキツそうでしたから……。それでも彼らがやりたかったのは、機械に頼らず自力でやるということに無意識的に惹かれていたからではないかと思います。静寂、広がり、そしてより深い関与に。ツアーの最後に穏やかな山の頂上に立つ誰もが、例外なしに、「なんて静かなんだろう」って言うんです。

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「これまでの生涯、色々なビッグマウンテンでスキーをしてきましたが、ここの地形は本当に『うわーっ、巨大!』っていう感じです」—リア・エバンス Photo: Garrett Grove  

バックカントリースキーといえば、そのリスクについて語らないわけにはいきませんが、リスクとはどのようにつき合い、その現実にどう対処していますか?

ジャスミン:「生きるも死ぬも癖しだい」という格言を肝に銘じています。私は毎冬100日以上バックカントリーに入りますが、いつも慎重すぎるくらい慎重に状況を判断しています。用心しすぎてせっかくの経験を台無しにしたくはないけれど、リスクの確率を最小限に抑えるためにつねに形勢を立て直しながら、無数の微調整を繰りかえします。自信たっぷりに堂々と滑るリアのようなアスリートを真似るのは、私にとっては簡単なことではありません。私の頭は状況判断が癖になっているから。つい「面白そう、でももしうまくいかなかったら……?」って考えてしまうんです。私はいつも「もしこうだとしたら?」と問いかけます。だから身体的に自分をプッシュして、自分ができるとわかっている方法で滑るためには、自信と慎重さのちょうどいいバランスが必要です。

リア:私はどれだけ速く滑ることができるか、何をジャンプできるかなど、いつも自分をプッシュするのが好きでした。それが私には合っていました。でも最近雪崩に遭って動揺し、それ以来これまでは聞こえなかった声が頭のなかで響くようになりました。私は家族や仲間やコミュニティを愛しているし、彼らも私を愛してくれている。いまではそれを熟知し、その愛を尊重しないという選択肢は、私にはありません。これからもずっと長くここにいたいから、これまで自分に合っていたやり方というものを見直すときが来たと思います。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

「私の頭は状況判断が癖になっているから。いつも『もしこうだとしたら?』と問いかけます」—ジャスミン・ケイトン Photo: Garrett Grove

2人とも驚くべき場所へ行く機会が与えられる仕事をしていますが、故郷の要因とは何ですか?

ジャスミン:コミュニティ。ともに働く仲間たち。夫。愛犬。もし自分ひとりだけだったら、そこは私の場所とは呼べません。あらゆる冒険ができる場所であっても、故郷となるのはコミュニティがあってこそ。夏のあいだロッククライミングのガイドを勤めるスコーミッシュが私の場所であるのと同じように、ヴァルハラもまた私の場所です。

リア:レベルストークは間違いなく私の故郷です。自分が正常になれる小さなポケットみたいなもので、私の人生のあらゆる側面を受け入れてくれる場所でもあります。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

ジャンボ・ハットに落ち着くジョン・バーゲンスキー、ジャスミン・ケイトン、リア・エバンス。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州 Photo: Garrett Grove  

ジャンボ・リゾート開発の可能性は、それぞれの故郷やコミュニティにも新たな関心を呼ぶでしょうか?

リア:コミュニティは時間をかけて築くものです。レベルストークの私のコミュニティでも、もっと広範な山のコミュニティでもそうですが、つながりを作ったり、資源の使用方法を理解したりしながら。ジャンボ・リゾート開発は悲しい問題ですが、同時にコミュニティを奮い立たせるチャンスでもあります。

ジャスミン:私的な冒険を越えて何かの後ろ盾になることにより、より深い対話とつながりが生み出されました。この問題に対する皆の情熱やエネルギーにとても刺激されます。個人探求の域を超越してものごとに思いを寄せ、そして行動を起こす人たちへの尊敬がますます深まりました。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

ジャンボ・ハットで悪天候の待ち時間を、スケッチしながら潰すリア・エバンス。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州 Photo: Garrett Grove

ジャンボ・リゾート開発に対抗するために、個人的にはどのような行動を考えていますか?

リア:開発問題に対する人びとの意識を高めることは、抗議行動の最も重要なひとつだと思います。教育サイドに立ち、人びとに、とくに若い世代に問題を提示したいです。そして自然のなかに出ること、民主主義とその機能を考えることを奨励したいです。

ジャスミン:これまでにも市民運動に参加したことがあります。ですから、もちろんデモ行進にはプラカードを掲げて参加するでしょう。でも危機に瀕する場所への意識を高めさせる旅を企画してお客様を教育することの方が、私のスキルをもっと活用できると思っています。私はこれからも闘いつづけます。自分自身や個人的な冒険よりも大きな何かに関わることが、私の幸福の本質的要素だということをこの戦いが教えてくれたからです。

地面を歩く:「ジャンボ・ワイルド」の2人のスキーヤーが野生の場所、コミュニティ、そしてアクティビズムについて語ります。

旅に缶パイするエバンスとケイトン。Photo: Garrett Grove

PAT_JumboWild_Facebook

映画『ジャンボ・ワイルド』についての詳細、嘆願書への署名、ツアー日程と予告編についてはPatagonia.com/japanをご覧ください。

10ウクレレを弾き、数学選手権に参加する幼少期を経て、ジャスミン・ケイトンは19歳のときにクライミング熱にかかり、シボレーのコルシカに荷物を積んでスコーミッシュに引っ越した。最近ではクライミング旅行に出ていないときは、スコーミッシュの完璧な花崗岩で登攀ガイド、あるいは夫のエヴァンと犬のベニーとともに〈Valhalla Mountain Touring〉でバックカントリースキーのガイドをしている。

11リア・エバンスはレッド・マウンテン・スキー場のスロープで温かいコミュニティとカナダの美しい山々に囲まれて育った。プロのスキーヤーとして、「ガールズ・ドゥ・スキー」キャンプで女性がスキーヤーとして最高レベルに達する手助けをする。現在ブリティッシュ・コロンビアのレベルストークに住み、山での体験を利用して人生で何が可能かの概念を拡大させるためのインスピレーションを分け合う

この対話はSnowカタログ2015年からの抜粋。現在パタゴニア直営店で無料配布中です。

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