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過程と報酬

ピート・ギアル  /  2020年6月16日  /  読み終えるまで7分  /  サーフィン

太陽に灼かれ、強風に打たれる、岩だらけの過酷な場所。大西洋に浮かぶ秘密の島にテントとタープで作ったこの海沿いのキャンプが、グレッグ・ロングとピート・ギアルとアル・マッキノンの仮住まいとなった。photo : Al Mackinnon

木漏れ日の差す広場には、鮮やかなブーゲンビリアが白壁に沿って生い茂っている。小さな魚市場は、道端で安いプラスチック製品を売る行商人にはさまれている。この見知らぬ港町には、はじめて来た。そして、グレッグ・ロングは散髪をしようと決めた。

行きあたりばったりで床屋を探しはじめる。看板のないドアの前に立ち止まる。壁いっぱいの鏡と油圧式ジャッキがついた年代物の理容椅子が目に入る。小さな部屋の片隅に掛けられたテレビには、ポルトガルのサッカー試合が映っている。奥の壁際ではしわの深い老紳士がビールをちびりちびり飲みながら、悲しげな音色で弦を奏でている。グレッグはその雰囲気にすっかり魅了されたようだ。好みのスタイルを注文することもなく、ただ椅子に座ってその作業を信頼することにする。

その後、散髪という目的を片づけた僕たちは、計画に1年以上費やしてきたサーフアドベンチャーまでもう一歩のところまで来ていた。あと1回だけ船に乗れば、そこからは四駆トラックでたどり着けるはずだ。写真家のアル・マッキノンと綿密に構想を練って実現したこの旅は、僕たちの故郷イギリスの暗い冬を乗り切るために切望していた動機づけをしてくれた。

サーフボードと、薪にしようと集めた倒木でいっぱいになった僕たちのトラックに、道の行き止まりで岩を割っていた作業員たちが振りかえる。彼方からは何もないように見えた景色には、実際はサッカーボールほどの大きさの火山岩がばらまかれていたことがわかる。つまりサーフポイントまでの最後の約3キロメートルはトラックは通れないようだった。

それから、予定していたキャンプ地まで必要な荷物とサーフィン用具を徒歩で運ぶという、気の遠くなるような過程がはじまる。熱帯の太陽の下で、それぞれの物資が足で運ぶ努力に値するかどうかを吟味する。酒はなくていいものとなり、水の価値はすべてのものに勝る、となる。目的地にようやくたどり着くとテントを2つ張り、棘だらけの低木にタープをかけ、重石で押さえてキャンプを設置した。好奇心旺盛な数頭のヤギが立ち寄っては、僕たちのキャンプの無意味さに呆れて去っていった。しばしの滞在地となる海岸線を偵察すると、大量のプラスチック製のゴミが散らばっている狭い潮間帯に驚く。分解の程度はさまざまだが、あらゆる色のビーチサンダルが潮間帯に並んでいる。これが人間が自然にもたらす貢献とは──まるで玄関先に並んでいるかのように有害な履物が散らばる様子は、冗談みたいだ。

過程と報酬

調査に数か月、移動に何日も費やした末、ついにこのポイントの果てにたどり着いたグレッグ・ロング。混雑とは無縁のこの波の完璧さと、旅行者が利用できる公共施設が周囲にないことから、一同はすぐにこの場所を秘密にしておくことにした。photo : Al Mackinnon

この旅のはじまりは、ドイツ人のハイカーたちが不意に撮ってSNSに投稿した写真に潜んでいたものを見たことからだった。僕たちの視線は、休暇を楽しむ彼らの満面の笑みの向こう側、つまり死火山の風下に位置する玄武岩のリーフから割れているオーバーヘッドのライトが見事にラインアップした背景にくぎづけになった。彼らの旅路の終着駅を祝う記念写真は、思いも寄らない方法で僕たちにひらめきを与えてくれたのだった。

船で到着すると、切ったばかりのグレッグの巻き毛はそよ風に気持ちよさそうになびき、旅は上昇気流に乗っているようだった。埠頭で借りた四駆トラックでジグザグを繰りかえしながら登っていくと、僕たちをここまで連れてきてくれたボートが吹きさらしの航路へ帰っていくのが見える。

「跳ね橋は上がったぞ」と、アルが皮肉たっぷりの笑顔で茶化す。

高原にたどり着くまでの2時間、トラックはローギアのままでのろのろと進む。遠くの狭い渓谷に小さな村が佇んでいるのが見える。どこか懐かしい雰囲気が漂い、この旅を計画することになった写真で見た景色と重なっていく。眼下に広がるほぼ垂直の狭い谷に、真水の存在を示す緑の線が走っている。生活を支える真水が存在しなければ、外界から遠いこの地は不毛な沿岸地帯でしかない。

過程と報酬

誰も乗っていない波がポイントに連なっていて、すぐにでもそこにたどり着きたい。だが火山岩とウニに覆われた海岸線のせいで、その一歩一歩は苦痛をともなった。photo : Al Mackinnon

一晩のうちに、予報されていたスウェルが訪れる。夜明けが近づくにつれて、パドルアウトするつもりのビーチにポイントを通過しながら大きな波が打ち寄せ、その唸る音が次第に大きくなる。スウェルは45度の角度でポイントに接近し、ブレイクするたびに怒りの襲撃のように白波が渦巻く。岩礁は真っ黒で、水の色もインクに染まったようだ。僕は緊張感が噴き上げるのを感じるが、グレッグは狙えそうなサイズのショアブレイクに乗り出すためにセットの切れ間を待つあいだも、模範的な冷静さを保っている。

「緊張するよ、グレッグ」と、僕はおどおどしながら認める。

「わかるよ」と答えた彼は、僕に向かってすぐに叫んだ。「いまだ、パドルしろ!」

それから1週間、僕たちはサーフィンをしては、食べて、寝て、その合間にときどきウニに刺されながら過ごした。時間の感覚はやがて原始的な日時計にまで退化し、意味をもつのは、吹き荒れる風と棘でボロボロになっていくタープの下の日陰にギアを移動させることだけ。アルは火山によって隆起した見晴らしのいい高台から、世界中のサーファーがいても立ってもいられないようなラインアップが並ぶショットを収めた。いい波は長つづきすることはなく、執拗な風に邪魔されて、一見ランダムにしか起こらない。最高のブレイクはポイントの先端ではなく、その向こうの予期していなかったリーフにあった。

サーフィンをせずに休息しているときは、照りつける太陽を避けて集まり、この土地の厳しい自然に思いを馳せる。この自然を構成する要素のひとつひとつが、最も鋭く、最も風が強く、最も厳しい形状にまで変化していったかのようだ。僕たちはこの小さなキャンプで新たな覚醒を経験し、いま直面している課題だけでなく、遥か彼方の問題についても語り合った。

3人にとってこの旅は、志を同じくする者たちがヤギの糞の臭いや過熱したタープと絡み合いながら集う機会となった。サーフィンへの情熱と、ストーリーを記録して語ることへの熱望はもちろん、ときには語らないストーリーも意図的に残しておくという、より深い哲学的なやり方も共有している。それは探求と秘密の存在を信じているからだ。いま多くのものに位置情報がつけられ、瞬時に消費されるというグローバル化したこの世界で、僕たちが信じているのは、地図上や検索エンジン以外に存在する宝物こそが、最も満足感が得られるものだということ。

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キャンプから3キロ歩いたところで、掘れ上がるライトハンドのスラブに突っ込むグレッグ。地球上で最も人里離れた海岸線にあるサーフスポットのひとつに出会うという、最高の報酬が現実となった瞬間 photo : Al Mackinnon

もちろん、なかにはこのポイントの場所を明かすために、ありとあらゆるテクノロジーを駆使して、僕たちがしたように深掘りする人もいるだろう。僕たちは修正論者ではない。ここの波はきっと前にも乗られて、また誰かが乗りに来るだろう。それにサーフィン帝国主義者としての権利を主張するつもりもない。目的地を過剰に宣伝して、地元の地域社会が望む速度で発展させようとする責任ある観光業の可能性を否定するつもりはない。

けれども、もしこれを読む人が僕たちの旅の過程に少しでも共感するなら、サーフィンにまだ残された可能性を見出すことができるかもしれない──どこか遠くの、新しい水平線と海の怪物に満ちた場所で、退屈な日常の向こう側にある何かを経験することが。冒険心は貿易風よりも高く舞い上がり、波に乗ることは地平線の彼方を探索するひとつの手段でしかない。その旅の過程で得られた質素なキャンプの食事や、世界の果てで1日中サーフィンをしたあとの夜に交わす会話が、何事にも比較できないほど貴重な体験なのだ。

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