最大の防御
選挙の夜、法律事務所『アースジャスティス』の代表であるアビゲイル・ディレンは、選挙マップが赤く染まっていくのを見た時、ある確信を持った。
「組織を大きくしておいて良かった」
環境専門の弁護士ディレンは、2018年に代表職を引き継いで以降、アースジャスティスがその54年の歴史上最速の成長で3倍に拡大するのを見守ってきた。現在、彼女は200人以上の弁護士チームと共に、気象対策にとって最も決定的な10年間の終盤に、米国最大の環境法専門の非営利法律事務所を率いている。
「準備の無いまま(2期目)トランプ政権に巻き込まれたくなかった」
2024年の選挙までの数か月間について、ディレンはそう語った。「だからこそ、彼らがやりそうなあらゆることを懸命に想像しようとしました」
環境保護に対する将来の攻撃に備えるにあたって、ディレンはまず過去を振り返ることが重要だったと語った。
「2017年、私たちの目標はきれいな空気や水、気候危機に対する適切な対策など、あらゆるものを保証する法的保護の枠組みが構造的に損なわれるのを防ぐことでした。そしてそれは驚くほど成功しました」
「もちろん、気候変動や加速する生物多様性の危機に対処する中で、貴重な時間を失いました。そうした時間は決して取り戻せません。でも、私達はじっとしていなかった」
その数字をざっと見てみよう。まだ係争中の訴訟がいくつかあるが、アースジャスティスは、トランプ政権1期目に提訴した135件以上の訴訟の85%に勝訴している。そして、その他の法律も早々に同様の傾向を示している。
「前トランプ政権下で、最も重要な勝利をいくつか達成しました。私たちは以前も同じ状況を経験し、そして勝訴しました」
南部環境法センターのエグゼクティブ・ディレクターで、ディレンの親密な協力者であるDJガーケンは言った。

トランプ政権1期目に提訴して成功した訴訟のなかでも、アースジャスティスは、バウンダリー・ウォーターズ・カヌー・エリア・ウィルダネス(左)とグランド・ステアケース・エスカランテ国定記念物(右)を保護する訴訟で勝訴した。Photos: Nate Ptacek and Jeff Foott
それでも、2025年は環境弁護士にとって全くの新世界だとディレンは言う。裁判はより難しくなり、訴訟の範囲や規模は拡大する一方で、環境への不可逆的影響が差し迫っている。
「私はキャリアを通じて見据えてきた重要な10年間の、今ちょうど折り返し地点にいます」とディレンは言う。「今後5年間は前進し続けなければなりません。全く信じられないほど遅れています」
「現状維持」アプローチは、トランプ政権1期目には有効であったかもしれないが、今日の環境弁護士は同じ考え方をする余裕はないとディレンは主張する。
「単に守備の姿勢で、もっと良い日が訪れるのを待ってはいられません。全てにおいて攻撃的な側面を持つ必要があります」
2期目トランプ政権が発足して約1カ月近くが経過し、ディレンが選挙前に想像していたことが現実のものとなりつつある。対策として、アースジャスティスは、トランプ大統領が企てる連邦環境予算の削減や海洋掘削水域の開放を阻止するため、法的な異議申し立てを計画している。それらと並行して、今やトランプ大統領の大統領令に脅かされている気候・健康保護を守るための既存の訴訟を進めている。
表面的には、これらの訴訟は防御的な性質のものに見えるだろう。しかし、ディレンと話していると、彼女が取る行動の一つひとつが、危険な政策課題を阻止するためであるのと同様に、新たな環境保護を創出するためであるのが明らかだ。
「最高裁はすでに、過去50年間に施行した法律の多くに疑義を呈するような動きを実際にみせています。ですから、法廷に立つたび、私達は間違った政策に対する防御だけでなく、同時に立法も行っているのです」
ディレンのチームがこの6年間開発してきたアースジャスティスの「スーパーエキスパート最高裁訴訟手続き」戦略もその一環だ。簡単に言うと、弁護士らは、過去の最高裁の判例を検討し、環境法の実質的な強化につながりそうな事例を特定し、これらの事例を実行可能な訴訟に発展させ、そして他の弁護士が同じことを行えるように支援するのである。
アースジャスティスが攻勢をかける要所はアラスカで、トランプの掘削・採掘政策の主要ターゲットとされる北極圏国立野生生物保護区のような公有地を守るため、数十年に及ぶ闘争に挑むことになる。トラスティーズ・フォー・アラスカをはじめとする現地の訴訟パートナーは、そのアプローチにおいて覚悟を固めた。
「汚職を告発し、生活の糧や手段に不可欠な場所を守ろうとするアラスカの人々と共に立ち向かい、提訴します」トラスティーズ・フォー・アラスカのエグゼクティブ・ディレクターであるヴィッキー・クラークは言った。

トランプ大統領の初日の大統領令は、アラスカのブルックス山脈を貫通する鉱山回廊を建設しようとするものだ。Photo: Sean Du
環境弁護士にとってもう一つの緊急戦略は「活気のない地域フォーラム」への参入だとディレンは言う。そこは地域・州全体に影響するエネルギーや気候に関する意思決定が知らないうちになされがちな、見えにくい官僚的世界だ。
結局、ディレンの意見としては「(米国には)国家的なエネルギー政策は存在しない」
「ドナルド・トランプはエネルギー非常事態を宣言することはできますが、実際のところエネルギー政策は州ごとに策定されており、さらに言えば試行錯誤を繰り返しているのです」
「公共料金がいくら請求できるのか。電力を供給するエネルギーはどこから調達するのか。必要なインフラをどのように整備するのか。そうしたことはすべて、料金を支払う市民に発言権があります」
ディレンは、トランプ2期目に弁護士が取り得る、より新しく効果的な介入策を熱心に探求しているが、それでも彼女は訴訟だけが特効薬とは考えていない。
「25年間この仕事をしてきてつくづく思うのは、人々が進んで語ろうとすることを、意思決定者は進んで実行するということです。私たち(弁護士)は、どんな法令を引用しようとも、どんな立派な科学者の協力を請えたとしても、現実の人々にとって正しい結果のために弁論していると感じられなければ、負けるでしょう」
新たなトランプ時代に、アクティビストと法律家が共に、より幅広い政策を進展させながら、環境法の基盤を守れるかは、時間が教えてくれるだろう。ディレンは目下、好機を逃さない優れた攻撃こそ、最大の防御になると確信している。