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ダムの真実を明かす

イヴォン・シュイナード  /  2018年5月28日  /  読み終えるまで7分  /  アクティビズム

1959年に建設されたイドバル・ダムがひび割れたのは、完成してすぐのことだった。投資家も工事作業員も、流れが急で予測不可能なことで知られるバスツィツァ川の威力を侮るべきではないという、地元住民の度重なる警告を無視した。建設後まもなくダムが川に砕かれはじめ、バスツィツァがふたたび自由に流れるようになると、イドバルは廃止された。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コニツ。Photo: Andrew Burr

ヨーロッパ最後の原生河川は巨大な危険にさらされている。今回のそれは、過剰な干ばつや有害な工場廃棄汚染によるものではなく、私たちにクリーンかつグリーンで再生可能なエネルギーをもたらすはずの水力発電ダムによるものだ。事実はといえば、ダムは汚い。そして破壊的な影響はその有用性をはるかに超える。とくに、ダムによって生成される電力は、いまではそれ以外のより有効な方法で得ることができる。河川を遮り、野生生物の生息地を破壊し、人びとを強制退去させることなく。これらの見当違いの事業計画が阻止されなければ、生態系の損傷と地元地域への影響は破壊的なものとなる。

“スロベニアからギリシャまで3,000以上の新しいダムが計画されている。そのうち半分近くが国立公園などの保護地域に計画されており、そのほとんどが環境影響評価の履行すらも条件としていない”

私は決してビジネスマンになりたかったわけではないが、そうなってしまったいま、自分の会社と声を世界の重大な環境問題を解決する一助のために利用しようと決意している。パタゴニアはお客様や社員が愛する野生地を保護するために40年以上も取り組み、我々の惑星を救うための闘いに参加することを、他の人びとにも奨励してきた。それはしばしば見逃されていたり、誤解されている脅威も含めて。

私がダムがもたらす危害について学びはじめたのは、熱烈なフィッシャーマンとして川に興味があったからだ。川はただ美しいだけでなく、陸から海へ栄養素と必須の堆積物を運び、プランクトンと魚を食べさせる惑星の動脈である。川は何百万人もの人びとにきれいな水を提供する。川はまた毎年20億トンの炭素を海へと運び、大気からそれを効果的に隔離して、気候変動に抗う一助となる。その量は毎年アメリカの全車両が生み出す炭素の10%以上に相当する。健全な河川と氾濫原は、気候変動によりますます激しくなっている洪水や干ばつから私たちを守る

ダムの真実を明かす

バルカン・リバー・ツアーのパドラーがヨーロッパ全土で最大の原生河川であるヴョサ川の河岸に集った。スロベニア出身の元オリンピックのボート競技選手ロック・ロズマンがパドラー集団を先導したのは、6か国にまたがる23の川、ほぼ390キロの距離におよぶ。バルカン地方の河川がさらされている危機に対する認識をより高め、この場所の手つかずの野生の特徴をヨーロッパおよび世界中の人びとに紹介するためだ。Photo: Andrew Burr

ダムはこれらすべてを脅かす。太陽光や風力発電とは異なり、水力発電は種を絶滅に導き、周辺の共同体を奪い、気候変動を悪化させる。新しい科学調査では、ダムによってできた貯水池はほとんどがメタンガスの形で毎年ほぼ10億トン相当の二酸化炭素を大気に放つ。ダムが引き起こす洪水により突然水中に沈んだ樹木と草が分解しはじめ、化学反応を引き起こすからだ。言い換えれば、大気排出を削減するはずのこの「グリーン」なエネルギーは、実際には逆効果となっているのかもしれない。

ダムはまた水位に翻弄される、信頼のおけないものである。昨年の低い降雨/降雪量のおかげで、水力発電はヨーロッパ大陸全土にわたり今世紀最低のレベルへと落ちた。

あたかもそれだけでは不十分だというかのように、ダムはまたひどく高価でもある。計画との違い、技術的問題、そして政治的腐敗が平均44%の遅延と96%の予算超過を招いている。さらに一旦ダムが建設されるとその維持費用は膨大で、ときとして法外だ。アメリカでは1,000以上の古いダムが高額で撤去されている。多くが重大な安全上の危険性を生んでいる。合計すると、1950年以来、推定2兆ドル以上がダムに費やされている。それと比較すると風力や太陽光発電の事業計画はよりクリーンで効果的で、ダムよりも建設期間が短い。世界中で、再生可能な風力と太陽光は、小規模水力発電の4倍から5倍の職を作っている。

これらすべての理由ゆえに、ダムは金の無駄使いであり、ヨーロッパ最後の原生地に新しいダムを建設するための投資は金の無駄であり、世界最大級の金融機関がそのような時代遅れで搾取的な科学技術を受け入れるというのは、モラルの茶番だ。

ロシアを除いて、バルカン半島はヨーロッパ大陸に残された自由に流れる最大数の川、澄みきった流れと広範囲にわたる砂利に敷き詰められた岸、また手つかずの沖積林の故郷だ。何世代もの人びとが飲料水、そして庭や小規模農場の感慨水としてこれらの川に依存してきた。スロベニアからギリシャまでいまや3,000以上の新しいダムが計画されているが、そのうちの半分近くが国立公園などの保護地域に計画されており、そのほとんどが環境影響評価の履行すらも条件としていない。これらのダムはアルバニアの手つかずのまま残された最大で最後の川を破壊し、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのすでに脅かされているドナウイトウを絶滅の危機に追いやり、そして絶滅寸前にまで減少しているマケドニアのバルカンオオヤマネコの生存を阻み、地域社会を解体する。

これらの破壊的な事業計画を止めるのは遅くはない。いますぐ取ることのできる3つの手段は以下だ。

まず第一に、地元バルカンの活動家と周辺地域とともに立ち上がり、ダムに反対しよう。たとえば昨年、クルシュチツァ・リバーのボスニアの女性たちによる抗議を機動隊が暴力的に閉鎖したが、地元地域は再編成し、その飲料水の供給を脅かす2つのダム提案をふたたび封鎖している。

ダムの真実を明かす

ボスニア・ヘルツェゴヴィナのクルシュチツァの勇敢な女性たち。Photo: Andrew Burr

2つめは、これらの事業計画への支持を中止するよう国際開発銀行に圧力をかけることだ。欧州復興開発銀行(EBRD)、ヨーロッパ投資銀行(EIB)、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)などの国際開発銀行はバルカンにおける水力発電事業に70億ユーロを注ぎ込んでいる。これらの銀行にダムへの融資を止めるよう説得することにより、他の投資家にも同じことを促す強力な示唆となる。バルカンに提案されているほぼ1,000の水力発電プロジェクトへの融資はまだ完了しておらず、いまこそ行動を起こすときだ

3つめは、ヨーロッパおよび世界全土において、よりクリーンで安価なエネルギー代替え案の開発を急速化する必要がある。アルバニアは300日の年間日照時間に恵まれている。ヨーロッパ全土で最後に残された原生河川であるヴョサ川をダムで堰きとめるより、太陽光発電を拡張する方が人びとと環境にとってはるかに優れ、そして安価でもある。

これらのダムのための本当の費用について真実を語るときだ。アメリカでは、いま我々みずからのダム建設ブームによって解体した地域社会や絶滅した種、また終わりのない高価な撤去事業などのツケを支払っている。私はヨーロッパが同じ間違いを犯さないことを願っている。

『Blue Heart(ブルー・ハート)』フィルム上映会

2018年6月12日(火)より、パタゴニア直営店にて『Blue Heart(ブルー・ハート)』フィルム上映会を開催します。お問い合わせ/ご予約はストアまでお問い合わせください。

6月12日(火) パタゴニア 東京・丸の内 開場19:30 開演19:40 定員40名

6月15日(金) パタゴニア 東京・渋谷   開場19:30 開演19:40 定員80名

6月16日(土) パタゴニア 鎌倉 開場19:30 開演19:40 定員30名

6月21日(木) パタゴニア 大阪 開場19:30 開演19:40 定員50名

6月22日(金) パタゴニア 名古屋 開場19:30 開演19:40 名古屋40名

6月29日(金) パタゴニア 福岡 開場19:30 開演19:40 定員30名

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