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光を力に変える樹のしたで

近藤 恵  /  2024年9月10日  /  読み終えるまで5分  /  アクティビズム

福島県二本松市でソーラーシェアリングの農場を運営する二本松営農ソーラーは、農業とエネルギーを融合し作物を育てている。

同じ二本松市内にある二本松有機農業研究会の設備。有機小麦と再生可能エネルギーの生産が同じ土地で成立することを、2018年の竣工以来ずっと証明しつづけている。

福島県二本松市にある私たちの農園は竣工から3年が経ちました。隙間をあけて並べられた太陽光パネルが設置されたその下で、ブドウが高温障害を避けながら育成しています。営農型発電とよばれるこの事業は、ますますひろがりを見せ、農業の世界においても明らかにエネルギーに関する様相は変化してきています。その意義を簡単に説明します。「地球沸騰化(グテーレス国連事務総長の言葉)」、「世界人口97億人(2050年)」の時代に土地の奪い合いが起きています。早期に土地の奪い合いを解決する実現可能な手段である営農型発電が、世界規模で注目が集まっているのです。

土地の奪い合いを解決する仕組みはこうです。ある地域に2ヘクタールしかないとします。いままでは、小麦1ヘクタール、太陽光発電1ヘクタールを別々に作っていました。しかし営農型発電の考え方を取り入れ、農業側は20〜30%の土地を太陽光発電に柱の部分として提供し、発電側は20〜30%余計に間隔を空けることで農地に光を当てます。こうすることによって、お互いがいままでの面積の60%増が可能になるということです。私は、「上半分の世界から下半分の世界に変わった劇的な変化だ」とお伝えするようにしています。今年は顕著な猛暑でしたが、地域で全滅に近かった大豆が、私たちの設備下では平年通りの収穫でした。影響が少なかったのは適度な日陰が高温障害を防いだためと思われます。土地利用効率の向上だけでなく、生育環境の改善にも役立つことが認められ始めています。新しい取り組みとして、柱の周りの草刈りを軽減するため今年から自然放牧(肉用牛)を実施しています。この農地は石が多くて耕作に不向きであることから、当初は水田として開発されたものの長期間にわたって手が入れられない状態でした。水田には不利であるがゆえに見放されていた土地を、農地として復活させ、かつエネルギーも同時に生み出す土地へと変容をとげたのです。また、これらの担い手は20〜30代2名の常用雇用者で、彼らはこの新しい農業スタイルに希望を抱いて仕事をしています。

光を力に変える樹のしたで

様々な角度から注目されている垂直営農ソーラーは2022年に初めて二本松市に設置された。

営農型発電の類型は大きく2つあり、「頭上設置型」と「列間設置型」に分かれます。後者の代表が垂直営農ソーラーです。写真で分かるように、上空と幅が開けているため今まで実現できなかった酪農大型機械による作業が可能になりました。営農型発電の老舗の世界会議『Agrivoltaics20XX』 の交流がきっかけでできた設備です。この世界会議の科学委員である環境エネルギー政策研究所の導入支援によりドイツからの技術移転を実現させています。垂直営農ソーラーは、採草地で地元畜産農家が営農し、牧草生育も良好です。日本の風速に耐えられるように設計を日本版にカスタマイズすることに細心の注意をはらいました。垂直でも発電量は近隣の通常太陽光発電設備と遜色がありません。太陽光パネルは直射日光でなくとも十分に発電するからです。東西に面した設備を作ることで、再エネ電気の不足する朝夕に発電のピークを持ってくる特徴があり、南向きが多い発電所が多い中でその供給に大きな期待が持たれています。今後は、大面積を擁する酪農家への導入や、水田農家への導入、道路・鉄道・住宅・駐車場のフェンスとしての活用が実現するでしょう。

光を力に変える樹のしたで

建設前に見学させてもらった山梨県の既存設備。パネルの下でたわわに実ったシャインマスカットを見て、「これならいける!」と確信した。私たちの農園も、人に確信を与える設備に育てていきたい。

ソーラーシェアリング推進連盟が、2050年の目標として農地の5%に営農型発電を導入すれば国内発電量の2割もカバーすると試算しています。具体的に私の住む県である福島県に当てはめてみました。仮にすべての営農型発電所が1か所あたり2,000平方メートルクラスの発電所だとすると、2050年に25,000か所あれば目標を達成できます。県内の販売農家戸数が75,000件ですから、3軒に1軒の農家が取り組むことは不可能ではないと思えてきます。ましてやこの規模であればコンバインを購入するより安く設置ができ、そこから地域のエネルギーが生み出されることは意味のある内容だと思います。東北大学の中田先生が開発されたツールで、再エネ転換の具体的効果を誰でも簡単に計算できるようになっていますが、これによると県外に流失していたエネルギー費用が毎年1,200億円もキープできることになります。30年で3.6兆円の支出が減るインパクトは豊かな社会を想像させます。

世界を追いかけようとすると、出羽守<でわのかみ>と言われて揶揄されることもあります。なぜ、今まで通りでなく、現状を掻き回してまでチャレンジしなければならないのか。これらの揶揄や批判は出口のない混沌とも言えます。しかし、その悩みは現代の私たち特有のものではなく普遍的な問題であったのでしょう。光の恩恵に浸りつつ木陰で休む農夫のように、パネルの樹のしたで、農業とエネルギーの融合した事業展開の種まきを考えながら、今日もすごしています。

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