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品質は環境問題

パタゴニア  /  2020年12月4日  /  読み終えるまで11分  /  フットプリント

トレイルランニング衣類のパターンを検証するデザイナーのエリック・ノルPhoto:Kyle Sparks

2017年にデビューしたパタゴニア初の寝袋は、45年かけて実現したものです。グローバル・トレーサブル・ダウン基準の認証を受けたバージン・ダウンを採用し、何世代もにわたり長持ちするこの製品は、高品質と優良なデザインの典型例だと、私たちは思いました。間もなくそのうちのひとつがジッパー修理のために戻ってきましたが、パタゴニアの修理チームはダウンの一部を失わずにジッパーの取り替えはできないことに気づきました。製品は機能性においては完全なる成功でしたが、修理可能性の基準においては失敗だったのです。私たちは初心に戻り、ダウンのバッフルに穴を開けずにジッパーの取り替えと修理ができるよう、ジッパーのデザインを変更しました。

パタゴニアはクライミング・ギアの製造からはじまり、衣類とギアを作るビジネスを48年間営んできました。私たちの品質に対する忠誠は揺ぎなく――そして進化しつづけている一方で、私たちは世界のアパレル/テキスタイル産業における巨大な変化も目にしてきました。それは概ねアウトプットの増加にともなう平均コストの落下という、規模の経済性がもたらす変化でした。

品質は環境問題

1973年シュイナード・イクイップメントのウルトラ・スール・バックパックに曲線の皮のストラップを縫い付けるという困難な仕事をする縫製マネージャーのヴァル・フランコ Photo:Gary Regester

たとえば、過去20年間で衣類の値段は半額以下に落ちました。同時に衣類の知覚価値も落ち、それは衣類が着つづけられる期間に直接影響してきました。平均的アメリカ人が今年だけで捨てる衣類は37キロとなり、これにより埋立地行きとなるテキスタイル(衣類、カーペット、フットウェア、革製品など)は毎年1,179トンになります。

電化製品や包装資材などと同じように、使い捨ての衣類やギアも品質を念頭に製造されず、製品の品質とその寿命のあいだには、直接の相関関係が存在します。衣類とギアの製造者として、パタゴニアは使い捨ての心理が起こす環境への害を相殺することは私たちの責任だと考えます。

長年にわたる、とくにマーケティングや広告による過使用により、「品質」という言葉は、その意味をほぼ失ってきました。パタゴニアは、その言葉を客観的かつ測定可能なものとしました。一世代前は高品質の衣類を作る方法を教える本はどこにもありませんでした。つまり、私たちは衣類のための品質を定義し、その基準を適用する方法を発明し、そしてそれに同意する必要がありました。

イヴォン・シュイナードは『社員をサーフィンに行かせよう』の初版で高品質の製品と環境への影響の直接的な関連性について書き、100年以上も手で斧を鍛造してきたスウェーデンの会社グレンスフォシュ・ブルークスの言葉も引用しています:

「高品質の製品は、その使用方法および手入れ方法を心得た人のもとにあれば、さらに耐久性が増すだろう……耐久性が増せば、使用する製品数が減り(原材料やエネルギーの消費を減らせる)、製造しなくてはならない量が減り(私たち生産者はほかの重要な活動、あるいは楽しいと思える活動により多くの時間を注げる)、捨てる量が減る(ごみを減らせる)からだ」

環境への影響(炭素排出、水とエネルギー使用量、天然資源抽出)と同時に、新しい衣類の製造に使われる原料資源を考慮するとき、すでに持っている衣類とギアをできるだけ長く使うこと、さらには次世代に譲ることでより長く利用することは、理にかなうことです。それは真新しいことではなく、ただ概ね忘れられた考えです。

品質は環境問題

魚は安全――とりあえずいまは。日本の南部のどこかで、太陽のもと温泉に浸かるキミ・ワーナー Photo:Tim Davis

ビキニがなさねばならないことは?

クライミング・ギアのみを作っていた当時、クライマーが命を預ける道具にとっては品質がおもな重点でした。しかし衣類の縫製をはじめたとき、ハーケンを鍛造することを超えた最終用途の考慮事項に遭遇しました。私たちは工業デザインとエンジニアリングを焦点にしていました。パタゴニア初のショーツがゴワゴワし、花崗岩にも負けず、また立たせておくことできた理由はそれでした。私たちはスコットランドの霧氷に覆われた壁でのポリエステル・パイル、ヨセミテのビッグウォールでのコットンのラグビーシャツなど、まだ証明されていなかった素材を野外でテストしていました。

私たちは工業デザインと同じ原理を、そしてそれが問う問題を当てはめました。それは有益で、美的で、長持ちするのか? たとえばビキニをデザインするとき、私たちはアルパインクライミング用のジャケットを作るときと同じ問いをします。ビキニがなさねばならないことは何か?(ズレないこと。)でも同時にどうしたらそれを耐久性があり、流行にとらわれず、美的なものにできるのでしょうか?
衣類の製造について多くを学ぶにつれて、解決すべき問題は増えました。私たちは初期のクライミング哲学においては環境エトスを促進したものの、サプライチェーンを密に検証するまでは、「不必要な害を削減する」ことも私たちの衣類を製造する方法に適用すべきであることに、気付いていなかったのです。会社の成長とともに、全員が共通の目的に向かって邁進するためには採点システムの構築が必要であり、それには私たちの衣類の環境への影響をさらに削減することが含まれなければなりませんでした。

2005年、私たちは(デザイン哲学に基づいた)「品質」がパタゴニアにとって何を意味するのかという概念を確認するため、非公式の照合を構築しました。パタゴニア初の、より正式な製品スコアカードは2015年に採用されました。それはアルゴリズムに類似したもので、パタゴニアが公言していた問題を解決するための一連の基準でした。私たちが望んだのは利益性ではなく、品質という客観的な測定方法を設計することでした。その方法は年月を重ねるにつれてより洗練されたものとなりました(私たちは最近そのスコアリングに「修理可能性」を足しました)が、スコアカードの基準はそれ以来あまり変わっていません。

私たちは最高度のスコア「10」からはじめ、製品が何らかの基準を満たさない場合は減点しました。現在このスコアカードには以下が含まれています:

1. 機能的か?
2. 多用途に使えるか?
3. 耐久性があるか?
4. 不必要な害を及ぼすか?
5. 修理が可能か?
6. 美的か?
7. フィットするか?
8. 手入れが簡単か?
9. 世界的に意味があるか?
10. 製品とそのラインはシンプルか?

各製品の品質と環境への影響の測定は複数のチームによる努力が必要です。その段階のひとつは30人を有する素材革新・開発(MID)部門です。製品の環境への影響の測定と管理の仕事に従事する数人の社員の1人に、MID内に属する製品責任チームの環境研究者ステフ・カーバがいます。

カーバは彼女のスコアリング分野(4.「不必要な害を及ぼすか」)を決定する3つの鍵となる要因、つまり製品の炭素排出度、「望ましい原料(オーガニックコットンあるいはリサイクル原料など)」の比率、環境革新の組み込みを検証します。彼女はコンピュータ・モデルを利用して客観的な点数を提案します。
「2年ほど前まで採点はすべて手動でやっていたので、新規と改良製品を検証するのが精一杯でした」とカーバは語ります。「より多くの計算と分析を含むコンピュータ・モデリングのおかげで、いま私たちは製品ラインの100%を査定できるようになり、従来の製品採点システムと比較して、その客観性ははるかに向上しました」

他のチームメンバーは循環経済、リサイクルの潜在性、土壌に炭素を隔離する手助けをするリジェネラティブ・オーガニック慣行により栽培された原材料などを検証します。炭素排出度の採点については、製品責任チームはアパレル業界を先導する持続可能な生産を促進する同盟〈サスティナブル・アパレル・コーリション(SAC)〉からのツールと同時に、研究者に委託したライフサイクル査定にも頼っています。

同チームのデータ科学者ブレット・ヴァンダーブロックは、ライフサイクル分析と原材料データを組み合わせ、製品デザイナー、素材開発者、そしてスコア工程に関与する社員全員が利用できるようにします。データの可視化と製品責任チームからのガイダンスとともに、製品デザイナーは悪影響がどこに起因するのか、それを翌シーズンにどうやって削減するのかについて学び、それにより最終的に各製品をできるだけ「10」に近づけることができます。

今日までのパタゴニア製品の平均スコアは8.87です。最高はメンズ・ロングスリーブ・ポケットTシャツの9.64で、産業用ヘンプとオーガニックコットン混紡のシンプルなデザインをフェアトレード・サーティファイドで縫製しています。最低スコアの製品は7.19です。低スコアの製品は通常、「不必要な害を及ぼさない」という基準において確固たる地位を保持できない、および/あるいは複雑すぎるか、修理が不可能なものです。スコアカード8以下の製品は、製造中止あるいは改良がなされるまでは製造が延期されます。

会社の創業当時からいまも変わらないもののひとつは、野外における品質テストです。耐久性と機能性/多用途性は、製品がどれだけ長期にわたって使用されるかに直接関与します。フィールドテスト・プログラムはその規模と精密度に関して成長してきましたが、フィードバックを得るために経験を積んだアルピニスト、サーファー、アングラーの手に製品を渡すという着想は、イヴォン・シュイナードと仲間たちによってはじまって以来、変わっていません。

フィールドテストを管理するウォーカー・ファーガソンは世界中のアスリートのグループと10年間、取り組んできました。前任は同プログラムを25年間管理した彼の父親、ダンカンでした。
「品質が環境問題であることは、ある意味明白です」とファーガソンは言います。「私たちは最初から品質にこだわってきましたが、それが変わることはありません」

快適さや耐久性など、テスターのためのパラメータは存在するものの、ファーガソンは彼らが持ち込むフィードバックについては制限を課していません。新しい予期せぬ考えや、より包括的な見解を発見し、捉えるという目的にそぐわないからです。手書きで戻ってきたテスト結果は、製品デザイナーがアクセスできるデータベースに収集され、保存されます。これは他の方法では集めることのできない必須データです。

品質は環境問題

長丁場のアルパイン・プロジェクトのためのトレイルランニング・キット、「ハイ・エンデュランス・キット」の試作品をドロミテでテストしたあと、記録を取るクレア・ギャラガーとルーク・ネルソン Photo:Eliza Earle

すべてをまとめる

デザイン、リサーチ、そしてテストから、これほど多くのスコア関連のインプット、データ、そして意見が舞い込み、そしてそのすべてが製品開発の過程で行われるなか、そのすべてはどのように管理されるのでしょうか。 それはパタゴニアの品質洞察&戦略マネージャーのアニカ・ウォシュバーンの仕事です。彼女はこのプロセスをつねに前進させながら、採点工程を管理し、情報を保存します。

ウォッシュバーンは採点の変更と改善の方法も管理しています。2016年、スコアリング・システムには修理可能性が足されるべきだということが明らかになりました。のちに、イヴォンは耐久性、機能性/多用途性、環境への影響など、一部の要因にはさらに重点が置かれるべきだということに気づきました。これらの基準を満たさない製品は作る意味がないことから、この3点についてはスコアを倍にしました。たとえば、手入れは簡単だけれどもその製品に機能性がなければ、その目的は何なのでしょうか? そしてもし見た目が美しくても不必要な害をもたらすのなら、それは私たちの故郷である地球を救うという会社のミッションにそぐわないことになります。

ウォッシュバーンは製品が「野生に」放たれたあとに戻ってくるデータ、つまりウェブサイトの製品スコア、返品データ、不良品率などに加えて、アメリカ最大のアウトドアギアの修理施設であるリノの修理部門からの情報と傾向など、お客様からのフィードバックとデータも管理します。これらのデータはすべて、すでに使われている製品であろうと、テストされていない理論であろうと、採点者および製品開発者にフィードバックされるため、彼らの考えを継続的に向上させられます。

製品スコアカードは5年間使われてきましたが、それが品質の改善のために有益であることを示す最大の指標は、スコアリングが現在、社内の複数の部門において深く浸透していることです。
さて、私たちが新製品にどれほどワクワクしているかに関わらず、誰かは必ずこう問うでしょう。「へぇ、それは10?」

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