オーガニックは大切

食べたものが自分の身体になる。
それにもかかわらず、いま私たちがどうなっているか見てください。巨大な工業型農場が、化学企業によって製造、所有された種子を使い、遺伝子組み換え大豆やトウモロコシを何千エーカーもの規模で育てています。アトランティックサーモン（タイセイヨウサケ）に、キングサーモン（マスノスケ）と別の種の魚の遺伝子を組み込んだ、フランケンフィッシュ（人造魚）を開発している企業もあります。農薬を散布する時期に農業地帯を訪れると、防護服を着た農夫たちが有毒な除草剤や殺菌剤、殺虫剤を作物に吹きかけているのを目の当たりにすることでしょう。米国だけで、毎年約4.5億キログラムもの農業用殺虫剤が使われているとされています。そして、それを私たちが食べることになるのです。

もちろん果物や野菜は洗えますが、農薬は散布される前に「展着剤」と呼ばれる化学薬品を混ぜて使われることが多いのです。この展着剤は、雨などで農薬が流れ落ちないようにするために使用されます。水道水でさっと洗い流すだけで、リンゴについた農薬をすべて落としきれると思っていますか。家畜に与えられる飼料に含まれるホルモン剤や化学肥料、抗生物質といったものはどうでしょう。どうやってこれを洗い流せるというのでしょうか。

食べたもので作られる私たちの身体。今こそ、農業関連事業に携わる企業に、遺伝子組み換えや化学物質まみれのものは望んでいないと訴えるときなのです。私たちは、フランケンフィッシュや遺伝子組み換え大豆になりたくはありません。抗生物質たっぷりの養殖サーモンや、過密な飼育場で育てられた牛肉になることを夢見て育ったわけでもありません。そして、おそらくもっと重要なのは、子どもたちにそうなってほしくないのです。

苦労と共に従来の農業の教訓を学んだパタゴニア。
1988年、パタゴニアのボストン・ストアの社員が、Tシャツが新たに入荷するたびに頭痛に悩まされるようになりました。この問題を「解決」してくれる換気の専門家は、コットンのシャツから放出されるホルムアルデヒドのガスが原因だと教えてくれました。そこで私たちは製品に使用している繊維について調査を依頼しました。すると、驚いたことに、コットンが最も問題のあることが分かりました。栽培、加工、製造の過程で多くの化学薬品が使用されていたのです。

決断は簡単でした。コットンの衣料を作りつづけるためには、オーガニック農法で栽培、加工されたコットンに切り替えるしかありませんでした。しかし当時は、サプライヤーに電話して、オーガニックコットンを注文すればいいだけというわけにはいきませんでした。オーガニックコットンの供給量が非常に少なかったため、必要なものを手に入れるために、農場から工場までのすべての工程でサプライヤーと協力しながら、何年もかけて学びました。そして1996年、文字どおり新たなサプライチェーンを構築して、パタゴニアのコットン製品の全ラインにオーガニックコットンを使用するという目標を達成したのです。最近では、栽培や加工の過程で環境に与えた影響を少しでも軽減するため、一部の衣服に従来のコットンをリサイクルしたリサイクル・コットンを使用しはじめました。

しかし、食物に関して言えば、問題はさらに緊急であり、困難です。人々は衣服よりも食物とかなり密接に関係しています。食はまさに命の源であり、身体を維持しつづける燃料であり、友人や家族と共有する文化ならではの喜びでもあります。それにもかかわらず、現在の食品産業サプライチェーンは非常に複雑で込み入っており、私たちは食物がどこから来ているのか、ましてや誰がそれを育てたり獲ったりしているのかをほとんど知りません。さらに言えば、それがこれまでに地球にどれだけの害をもたらしてきたかもわかりません。

農業は世界の最大産業であり、10億人以上の人々が携わっています。しかし、化学物質に依存した「緑の革命」はもはや機能していません。私たちはこれまで以上に多くの人々に食料を供給しているかもしれませんが、その代償は驚くべきものです。世界保健機関（WHO）は、毎年300万人が農薬中毒に苦しんでいると推定しており、害虫はますます抵抗力を持つようになっています。1940年代には、米国の農家は作物の7％を害虫によって失っていましたが、1980年代以降、農薬使用量が増加しているにもかかわらず、損失は13％に増加しています。

オーガニック農業は正しい道への第一歩です。リジェネラティブ・オーガニック農業はさらにその先を行きます。
その土地に適応する植物、輪作、被覆作物、改善された栄養再循環、新旧の栽培技術を組み合わせることで、小規模の土地でも競争力のある収穫量を生み出すことができます。ブラジルの農家は、緑肥やマメ科植物の被覆作物を利用して、トウモロコシと小麦の収穫量を倍増させました。メキシコの10万の小規模コーヒー農家は、完全なオーガニック栽培に切り替えることで収穫量を半分増加させました。こうした事例は数多くあり、その結果は広範囲に及びます。ミュンヘン工科大学の研究によると、リジェネラティブ・オーガニック農法で管理された土壌は、従来の農業に比べて生産単位あたり約20％少ない温室効果ガスを排出することがわかりました。〈ロデール・インスティテュート〉は、リジェネラティブ・オーガニック農法で管理された土壌が、実際に排出するよりも多くの炭素を固定できることを発見しました。もちろん、簡単で容易な解決策はありません。しかし、私たちが地球の気候変動、干ばつの増加、化石燃料の供給減少に直面していることを考えると、今こそ食料供給チェーンを再考する時です。私たちは、オーガニック農業がその始まりに適していると考えており、第2の「緑の革命」が世界の人々に食料を供給しつつ、より健康的な生活環境を作り出すと信じています。

とはいえ、地球にとって良いからという理由でオーガニック食品を食べる必要はありません。多国籍化学企業に抗議するためでも、農業従事者を守るためでも、または遺伝子組み換えに反対するためでもありません。「正しい」ことをしているのですから、大義名分を考える必要はありません。もっと個人的な理由でいいのです。

発表された査読済みの研究論文によると、オーガニックの果物や野菜は、従来の農法で栽培された同じ作物よりも、有益な抗酸化物質の含有量が高いことがわかっています。
例えば、科学雑誌『PLOS ONE』に掲載された最近の研究では、オーガニックのトマトは従来のトマトよりもビタミンCを50％多く含んでいることが示されています。乳製品の調査結果も同様に注目に値します。オーガニックの牛乳は、従来の牛乳よりも有益なオメガ3脂肪酸を多く含み、オメガ6脂肪酸の比率も健康的です。さらに重要なことに、『Food Control』および『Meat Science』の両ジャーナルに掲載された研究では、従来の肉と比較してオーガニックの肉には抗生物質耐性菌が少ないことがわかりました。科学は、私たちが直感的に知っていたこと、つまり食物の栽培方法がその健康効果に直接影響することを裏付けています。

多くの人にとって、オーガニックの肉や農産物は美味しいと感じられています。
オーガニックの果物や野菜は硝酸塩の含有量が低く、抗酸化物質の量が高いため、風味に深みが増すと言われています。オーガニック農家は、風味が優れていると評価される伝統的な品種の作物を育てることが多いです。放し飼いの家畜は、育てられた土地特有の風味を持っています。収穫量を最大化するために選ばれ、育てられた従来の農作物が、しばしば風味を犠牲にしているのは驚くことではありません。

しかし、最も説得力のある理由は、子どもの頃に学んだシンプルな教え「食べたものが自分の身体になる」に立ち返ることにあります。選択肢があるなら、風味、食物繊維、複合炭水化物が豊富なオーガニック全粒粉、抗酸化物質とビタミン豊富なオーガニックケール、自然の甘みがはじける地元産のアプリコットを選びたい。天然のソッカイ・サーモン（ベニザケ）、自由に動き回り草を食べる牛、長い根を持つ多年生穀物を食べたいのです。これが、私たち自身そして子どもたちのために望むものなのです。つまりは、食べたものが私たちの身体になる。それ以上でも以下でもありません。