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ママ、洋服はどこから来るの?

アリソン・ギブソン & 森山 伸也  /  2021年6月8日  /  読み終えるまで10分  /  Worn Wear, カルチャー, クライミング, コミュニティ

血は争えない。コートニー・レイノルズが地元のフリーマーケットで手に入れたキルトで双子の娘のジャケットを縫う間、息子のサミーは子供用のミシンで自分の作品を縫い始める。Photo: Tim Davis

残暑の厳しい南カリフォルニアの秋。穏やかな朝、アスファルトが熱くなる前に、売り手はすでに縞模様の毛布を地面に広げ、不揃いのヴィンテージセーターを1枚1ドルの値札で並べていた。刺繍入りのテーブルクロスがあふれた段ボール箱の隣には、プリント柄の薄手のスカーフ。頭上からはカモメの声が聞こえる。ベンチュラのイベント会場を囲む塀の向こうはすぐ海だ。水曜日といえば、コートニー・レイノルズはたいていここで布の山を漁っている。古着や色鮮やかなキルトを分解し、幼い3人の子供たちの服にリメイクしたり、「Napkin Apocalypse」と名付けた自身のオンラインショップで売るためだ。

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フリーマーケットでの宝探しを伝授。クラフトにリメイクするための端切れやおもちゃを探すコートニーとサミー。Photo: Tim Davis

「縫うより布が貯まるほうが早くて」。コートニーは、薄手のスカーフの束に加え、厚手でサイケデリックなフリンジ付き花柄ブランケットを大きなトートバッグに詰めた。このリネンキャンバスのバッグも手作り。すでに亡くなってしまったが、インスタグラムの人気者だったフレンチブルドッグ「パム」の写真をプリントした。「良い一日を!」と売り手にお金を払う。売り手は物腰の柔らかい男性だ。キッチン小物、それにセラミック製のカラフルなピエロ人形もたくさん並べている。履いていた青緑色のシルクの花柄ワイドレッグパンツを褒めてくれたので、コートニーはもう一度お礼を言った。

鮮やかな色や柄の素材は縫うだけでなく、着るのも大好きだ。自分の着る服だけでなく、双子の娘のボビーとマギー、息子のサミーの服も手作り。ショーツ、パンツ、ジャケットなど、どれにもプリント柄のヴィンテージ生地を目がクラクラするほどふんだんに継ぎ合わせて作っている。フリーマーケットやリサイクルショップで見つけた雑貨に色を塗ったり、子供のおもちゃにリメイクしたりする。プロのサーファーである夫のデーン・レイノルズと一緒に暮らすカリフォルニア州カーピンテリアの自宅には、約1,224坪の広大な敷地があり、子供たちと落ち葉、羽根、木の実を集めてさまざまな遊びを工夫することもできる。

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今やインスタグラムで有名なこのジャケットは、コートニーが手縫いのアップリケを施しており、彼女が愛する茶色と黒のフレンチブルドッグ「パム」のものだった。パムのアカウント(@pamlovesferrariboys)には、実物大以上の写真や、お茶目でスタイリッシュな愛犬の雰囲気からアイデアを得たカスタムウェアが並んでいる。Photo: Tim Davis

コートニーのInstagramのフォロワーは82,000人以上。かなり奇抜なスタイルに加え、自宅(捨てるゴミも含めて)を市販品で埋めることを良しとしないクリエイティブな(ときには斬新な)プロジェクトが人気の理由である。作品や家族生活を紹介する投稿には、大文字や絵文字たっぷりの「絶叫」や興奮したコメントが並び(「YESSSSSSS POWERRRRCLASHIIIIIIINGGGG(パワークラッシング万歳)」、「i love watching videos of little ones creating(子供たちが工作をしている動画がかわいい)」、「Best Mom EVER(史上最高のママ)」)、ソーシャルメディアが生み出す均一な流行への反発、そして遊び心があって無駄の少ないライフスタイルの人気ぶりを示している。手作りウェアの大人サイズを求める人も多い(熱心に頼み込む人も)。投稿にそそられて縫製を始めたファンもいる。

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コートニーの息子のサミー、双子のマギー(左)とボビー(右)は、遠くに行かなくても自然と戯れることができる。サミーは庭で新しいペットを見つけるのが得意だ。ナナフシの家族もいれば、小さなオタマジャクシから巨大なウシガエルに成長した「クッキー」も。Photo: Tim Davis

コートニーは手作りの洋服で育ったわけでも、特に縫製に興味があったわけでもなかった。むしろ動物が大好きだった。カリフォルニア州ベンチュラで生まれ育ち、ムーアパークカレッジのエキゾチックアニマル訓練・管理センターで学んだ。卒業後、サンディエゴにあるシーワールド水族館にイルカのトレーナーとして就職したが、まもなく運営企業の体質と自分の役割が、それまで思い描いていた生涯の夢とは異なることに気づく。21歳でベンチュラに戻ったものの、何をするあてもなく、気まぐれにコミュニティカレッジの洋裁コースを受講した。

教室での作業について彼女はこう語る。「すっかりハマったの。1つずつピースを縫い合わせるのが楽しくて。それまで何かを最初から最後まで創作したことなんかなかったから、もう大興奮。すごい。無限の可能性がある、って」

自宅の作業部屋は、まるでリメイクの実験室だ。白く塗った木の床と壁はヴィンテージの作業台や脇机がバランスよく配置され、そこにあらゆる時代やスタイルの布が詰まっている。平らな場所はどこも製作中の鮮やかな色の布でいっぱい。私が家を訪れたとき、彼女はフリーマーケットで買ったハイウエストのホワイトデニムパンツを履いていた。一面に色とりどりのペンキを散らしたデザインと同様、彼女の家は、市販の新品を買わないことが楽しみを減らすわけではないという信念を表現している。

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コートニーには、誰かが捨てたものを美しくて便利なものに変える才能がある。だからこそ彼女の作品は独創的であり、あっという間に売り切れる。Photo: Tim Davis

「私が服を作る最大の理由は、それがすごく楽しいから。ここにある布を使って作品が出来上がっていくのを見るとわくわくするし、ゴミにせずに世界にひとつだけのものを作るというのも気分がいいの」

3人の子供を持ち、子供にどれだけ物が必要かということを知った今、ファストファッション業界の急速な廃棄サイクルに加担しないことも動機の1つだ。しかし同様に重要なのは、自分で作った服にストーリーがあること。彼女は自分の作品のストーリーの重要性をよく語る。たとえば鮮やかな柄の幼児用パンツには祖母から受け継いだ布を使った。修理した汽車のおもちゃはサミーが自分でフリーマーケットで選んだものであり、4歳の誕生日プレゼントだった。

そんなプロジェクト以上に彼女が熱を込めて語るのは、動物のことである。作業部屋にいると、保護施設から譲り受けた鳩の「フィルフィー」の鳴き声が外から聞こえる。後で探すと、居間のケージの近くにある10メートル近いイチジクの木のてっぺんに止まっていた。コートニーは「私にとって動物がどれだけ大切かを言葉にするのは本当に難しい」と語りながら、庭の動物たちを紹介してくれた。敷地内で飼っているペットは50匹以上。まだ若くて元気いっぱいのバーニーズマウンテンドッグの「ジャマイカ」、複数の雌鶏と1羽の雄鶏、伝書鳩たちもいる。

鮮やかなピンクに塗ったお手製の木の鳩小屋には、現在、45羽の伝書鳩がいる。コートニーが扉を開けると、少なくとも20数羽が飛び出して行った。鳩たちの羽ばたきが、まるで川が流れるように、優雅に、かつ荒々しく、私たちのそばを通り過ぎる。

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コートニーの庭には、伝書鳩、鶏、元気なバーニーズマウンテンドッグのジャマイカなど、50匹以上のペットがいる。Photo: Tim Davis

記憶にある限り、コートニーは動物への「執着」が自分の世界観の土台だと語る。人間が環境に与える影響に目を向けたきっかけも動物だった。最近では、環境破壊を少しでも抑え、逆転させ、動物たちや自身の子供たちのために地球を守ろうと、ライフスタイルを変えるようになった。

ノスリが空を舞い始めると、鳩たちは驚いて小屋の屋根に戻り、危険かどうかを見極めているようだった。「ここでは毎日自然に囲まれている。だからこそはっきりと意識できる」同様に、日常的な家庭生活の中で服をアップサイクルしたり、家庭用品を再利用したりすることが、服やおもちゃの出所に対する子供たちの意識につながってほしいと彼女は考えている。

もちろん服を手作りするのは目新しいことではない。今でも経済的必要性から作る人はいるが、かつて店で売っていた服と同様、もはや時間そのものが贅沢品であり、米国の低所得者には手の届かないものになってしまった。かつて家族の服作りを担っていた人々(大半は女性)は外で働くようになり、低賃金、福利厚生なしで、複数の仕事を掛け持つことも多い。今や家にいて服を手作りできることが特権なのである。安価なファストファッションの普及により、多くの家族にとっては量産アパレルを買うことが家計の節約でもある。

しかしファストファッション業界は、不当で危険な労働慣行、環境への悪影響で厳しい目を向けられている。経済的余裕のある人たちは、着るものにこだわり、倫理的で環境責任を果たす小売業者から商品を購入する。古着やアップサイクル素材を使用した手作りウェアを買うことが、自分の満足と持続可能性の両方につながることも発見しつつある。コートニーのようなアップサイクラーは増え、それぞれが独自のスタイルや手法を生かした商品を地元の手作りマーケット、Etsy、Instagramで販売しながら活発な創作運動を生み出している。

コートニーは、持続可能な生活のための選択肢を作るという立場を自覚するとともに、この活動の幅を広げる責任も感じている。確かに、どれだけの規模の変化を起こせば、環境とそれに依存する人間が目に見えるほど変わるのか。そう考えると気持ちがくじける。しかし「自分の生活だけでも、改善できる分野はたくさんある」と、彼女は語る。そして問題の大きさに押し潰されないよう、この活動を1回の変化ではなく継続的なプロセスと捉えることにした。「多くの人は持続可能性をゼロか100かの問題と考え、手を出さない。でも少しやってみるだけで実は大きな違いになる」

こうして彼女は、身近な環境に影響を与える日常習慣を変え始めた。たとえば台所を中心にプラスチックの使用を減らすことだ。使い捨ての食品保存袋ではなく、再利用可能なラップや容器を使う。試行錯誤だと言いつつも、自身で販売するスクリーンプリントTシャツにオーガニックコットン素材を選んだり、お気に入りのレストランのテイクアウトや化粧品の容器にプラスチック以外の素材を採用するよう働きかけたりもする。

多くの人が自身のSNSを見ているという意識は、行動の自覚や向上心につながる。しかし最近では、自身が最も影響を与えているのは(そして影響を与えるべきは)子供たちだと考えるようになった。「子供に教えることは将来に引き継がれていく。それが自分の生きた証」。そんな古めかしい考えを持つなど、若いころには想像もつかなかったと、コートニーは笑いながら言った。

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コートニーのInstagramのフォロワーは82,000人以上。かなり奇抜なスタイルに加え、自宅(捨てるゴミも含めて)を一般的な市販品で埋めることを良しとしないクリエイティブな(ときには斬新な)プロジェクトが人気の理由である。Photo: Tim Davis

そこでコートニーは子供たちと一緒にデニムに模様を描き、1点物のジャケットに仕立てたり、怪我をした猛禽類の世話をして野生に戻したりする。サミーに関しては、ゴミ拾いから分別とリサイクルまでゴミのすべてに対する関心を満たしてやり、地元のゴミ回収業者をロックスター並みに歓迎した。サミーのゴミに対する強い「こだわり」に影響を受け、Instagramのフォロワーの要望もあって、コートニーは「Trashboy」というウェアの製品ラインナップを発表した。続いてスピンオフの「Trashgirl」も。

オンラインで何千人ものファンがコートニーのライフスタイルを支持するのは、彼女の創作や具体的な取り組みをすべて真似したいからではない。むしろ、コートニーのストーリー全体が誰にとっても楽しく、魅力的に映るからである。フリーマーケットでの宝探しや子供たちとの実験的な創作は、多くの人にとって消費者としての持続可能な選択という概念を見直すきっかけとなる。持続可能性への取り組みは、やりがいのあることであり、身の回りの物に個人的な強い愛着を与えるものなのだ。地球のために習慣を変え、誰もが自分の服を縫う必要はない。しかし、手作りという独創的な日常活動は、きっと周囲の人々にも影響を与え、広がっていくことだろう。

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