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未来と連帯して

ニーナ・リジオ & レベッカ・ソルニット  /  2023年10月19日  /  読み終えるまで12分  /  アクティビズム

たとえ抗議の要求が満たされなくても、それは永続的で計り知れない結果をもたらす。

高所に組んだ「モノポッド(一本脚の物見台)」に陣取り、ドイツの村リュッツェラートの破壊を阻止する気候変動活動家たち。このようないくつかの足場とツリーハウスをロープでつなげたこの構造は、採鉱重機の行く手を塞ぐとともに、活動家が逮捕を免れるのに役立った。

全ての写真:ニーナ・リジオ

リュッツェラートという村の住民が最近、強制退去させられました。同様の町村はこれまで他にも十数件あり、農地も野原も樹木も道路も家屋も納屋も、何世紀にもわたる農村生活が跡形もなく消えてしまいました。採掘坑を拡大させつづけるため、道路は敷き直され、墓地は掘り起こされ、死者は他の場所に埋葬されました。2018年には、住民が千年にわたって崇拝してきた場所や聖ランベルトゥスに捧げられた教会が、貪欲な土地の強奪のために粉々にされました。

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活動家たちは、安定のためだけでなく、警察の動きを鈍らせるために、それぞれの電柱をロープでつないだ。もし1本でも電柱が切り落とされれば、他の電柱も一緒に倒れ、怪我や訴訟につながる。

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警察による指紋押捺を避けるため、リュッツェラートの活動家たちは指先を針で突き、その傷口を瞬間接着剤で塞いで、グリッターを付けた。逮捕から48時間以内に告訴手続きを済ませなければならないカリフォルニアの検察側とは異なり、ドイツの関連当局は告訴の前に活動家を1週間拘置することができ、「ギザの7日間」とも呼ばれている。だから、グリッターはしばらく剥がれ落ちないようにする必要がある。

今年1月リュッツェラートで約3万人の気候変動活動家が、直径数キロメートルの採掘坑を削る重機の行く手を、命がけで阻むという最近のビデオがあります。長期におよぶ占拠者の多くは、匿名であることを希望して独創的な仮名を使っていますが、なかにはグレタ・トゥーンベリさんのような著名人に加え、クライマーやクラシック音楽家の姿も見られます。ここ数年間で約千人におよぶ献身的な人びとが村に移住し、みずから造った建物で生活しながら、採鉱を阻止してきました。また何百人もの科学者も遠くから声を上げ、この採掘計画は「エネルギー安全保障」にはまったく無用なものであると訴えました。

気候変動活動を語るとき、「ネットワーク」について語ることが多くありますが、ここでのネットワークはまさに文字通りのものでした。木の上での座り込みやその他の抗議行動に使われる三本脚の物見台やケーブルが、複雑なクモの巣のように張りめぐらされ、活動家たちはその土地を立体的に移動したり、非常に独創的な封鎖戦術としたり、警察の手が届かない場所へ移動したり住んだりすることができます。これは、ミシェル・オバマが「相手が下へ行く(低俗になる)のなら、私たちは上へ行き(気高く生き)ましょう」という有名な発言をしたときに考えていたことではありませんが、クライマーたちはこの抗議の重要な役割を担い、物見台に上がり、ワイヤーを渡り、ポールを登り、ロープで吊るされた足場やツリーハウスを往来して、封鎖にあたりました。

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2023年1月半ばには、木の上で座り込みを行う気候変動活動家たちには、たくさんの仲間がいた。炭鉱の拡張に反対するため、採掘坑の縁に推定3万人の抗議者が列をなした。その背後には、よりクリーンなエネルギー源が象徴的に佇んでいる。

撮影された多くの写真のなかに、いずれは水がたまって不自然な人造湖になるであろう巨大な坑の縁に立つ抗議者たちの姿が写っているものがあります。彼らの前には、地面を引き裂いて、地球に穴を掘る、チェーンソーのような歯車のついた巨大な掘削機があります。もしあなたが未来を信じているのなら、遠い未来の誰かがこの人造湖を見て、ここまで地面をえぐり出して短期的な利益を得たのかと、疑問に思うだろうことは、想像に難くありません。

これは、ドイツのデュッセルドルフのすぐ西にある巨大な炭鉱が、40年ものあいだ農地と集落を滅ぼしながら拡張をつづけてきた様子の一例です。炭鉱は現在、約20平方キロメートルもの土地を占める、というよりは、剥き出しにしています。抗議行動は土地と地域社会の破壊、そして石炭採掘に反対しています。石炭の燃焼は気候変動の原因となり、化石燃料から脱却してパリ協定の目標を達成するというドイツの誓約を台無しにするものでもあります。

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活動家たちは逮捕の日に備えて高いところへ。法律により、ドイツでは地面から数メートルの高さにいる場合、警察はクレーン車を使って一人ずつ排除しなければならない。

ここで採掘されるのは褐炭です。これは最も汚い化石燃料のなかで、さらに最も汚く、最も低品質のものです。誰も、とくに再生可能エネルギーへの移行を加速させるための資産をもつドイツのような豊かな国が、使うべき燃料ではありません。ある科学論文によれば、この炭鉱は1ギガトン以上の潜在的な炭素排出量をもつ世界425の化石燃料事業の1つに数えられていて、別名「世界の炭素爆弾」とも呼ばれています。地面に掘られた坑は1つの問題ですが、そこから採掘され、燃焼されるものは、さらに大きな別の問題であり、爆弾そのものです。

この炭鉱の名はガルツヴァイラー。破壊された町の1つに由来します。気候変動活動家たちは、2020年以来リュッツェラート周辺の木の上や野原、空き家や自分たちで造った建物に陣取り、すでにGoogleマップで簡単に確認できるほど巨大化した炭鉱のさらなる拡張を阻止しようとしています。

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写真家ニーナ・リジオが滞在したツリーハウスからの眺め。手前は抗議活動家のプレスチームのメンバーであるカンテ。警察が動き出すと、カンテは活動家たちがなぜ体を張ったのか、ジャーナリストたちに確認した。

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携帯電話はなく、カンテ(写真)のようなツリーハウスの活動家たちは、ロープを伝ってお互いを訪ね、補給をし合った。どのツリーハウスが一番おいしい食べ物を持っているか、一番いいトイレがあるか、数少ないトランシーバーを共有しているかは、すぐにわかった。匿名性を保つため、携帯電話は禁止されていた。

近年の記憶にある他の多くの抗議行動と同様、リュッツェラートでの激しいデモも、すぐに目標を達成することはできませんでした。であれば、失敗に終わった、何も成し遂げられなかった、と言うのは簡単で明白なことでしょう。しかし、そのような略式な判断は、直接的で即時的な結果に対する期待、要求、願望からくるものであり、その前提にこそ、さまざまな問題があり、ビジョンの失敗があり、問題の根源がある、と私は主張します。

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抗議活動の窮地を切りぬけるため、活動家がロープのなかほどに移動すると、クレーン車を待てずにしびれを切らした警備員は彼をつかまえようと何度もジャンプ。思わぬドタバタ劇が繰り広げられた。

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逮捕時に警察から不当な扱いを受けた場合、報道陣のカメラを直視して声を上げるよう訓練された気候変動活動家たち。

多くの抗議行動は、非常に具体的な要求からはじまります。そのため、多くの場合、その要求がすぐに応じられることはなく、まったく応じられないことも多々あります。しかし、こうした抗議行動には、異なる種類の重大な影響力があります。そのうちのいくつかは、間接的で遅発的な影響を探して評価できることもありますが、根本的に評価できないこともあります。

かなり前のことですが、ベトナム戦争に抗議する初期の団体の1つ〈ウィメン・ストライク・フォー・ピース〉という小人数のグループが、ホワイトハウスで節度をもって抗議しました。そのときの1人は、次のように回想しています。数年後、著名な小児科医で育児提唱者のベンジャミン・スポック博士が声高に反戦を訴えるまでは、自分たちの行動は徒労に終わったと感じていた、と。ところがそのスポック博士を反戦運動へと駆り立てたのは、何年か前に雨のペンシルベニア・アベニューに立つ小人数の女性グループを目にしたことだったそうです。自分の行動が与える影響をすべて知ることはできず、またわからないなかでも行動しなければなりません。しかし感情は人から人へと伝わり、自分の理念や信念を貫くことで、他者に希望と勇気を与えることができるのです。

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湿気と寒さの中で長い時間をやり過ごすには、ギターがあれば良い。警察とRWEの警備が活動家の持ち物を破壊したため、同情的なジャーナリストや国務省の人間でさえ、立ち退きの日に楽器などの物品をこっそりと差し入れた。

原則に基づいて行動することは、種を蒔くようなものです。1本の木の種を蒔いたとして、その木が実をつけるまでには何十年もかかります。セコイアのような巨木となれば、実をつけるまで数百年もかかるかもしれません。いま私たちが受けている恩恵は、多くの種まき人がもたらした直接的な影響と間接的な影響からのものです。市民的不服従と奴隷制度廃止を訴えたヘンリー・デイヴィッド・ソローから、ケニアのグリーンベルト運動を率先してノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイまで、すでにこの世を去った多くの先導者たちからです。彼らが蒔いた種から、私たちは彼らの展望と決意の実を収穫しているのです。

もちろん、アクティビズムは、それが必ずしも目指すものでないにせよ、より直接的な勝利を収めることもあります。近年私が目にした最も力強い例は、2016年のサウスダコタ州スタンディング・ロックでの抗議行動でした。数人のラコタ族の女性たちが集まり、そしてさらに多くのラコタ族の人びと、ついには数千人の先住民と先住民以外の人たちが、原油の輸送を促し気候変動の一因となるパイプラインの建設を阻止するために結集したのです。パイプラインは川の上流を貫通して川の環境を脅かし、スタンディング・ロック・インディアン居留地の住民の権利を侵害するものでした。

パイプラインは建設されてしまいました。直接的な結果だけを評価するならば、この運動は失敗しました。しかしこの運動は、スタンディング・ロック・スー族の若者や、その他多くの先住民族の若者たちに、希望と、主体性と、力を呼び起こしました。そして多くの先住民以外の人たちに、先住民族の歴史、権利、侵害行為について、さらには化石燃料産業におけるパイプラインとその機能について教えました。それはまた、多くの異文化間の同盟と友情を生み出しました。当時はニューヨーク・シティから友人たちと車でスタンディング・ロックを訪れた無名の若い女性でしかなかったアレクサンドリア・オカシオ=コルテスが、アメリカ連邦議会議員に立候補し、当選し、気候変動問題を訴える力強い代弁者となるきっかけとなりました。

アクティビズムに関して直接的な結果のみを評価することに、私はしばしば疑問を抱いてきました。前記した話は、重要なことの多くは即時的なものでも直接的なものでもないことを人びとに認識してもらうための話として、私が以前に話したものです。しかしリュッツェラートでの最近の衝突を熟考するうちに、私は抗議行動を直接的な観点からのみ評価してはいけないことを思い知らされました。私たちは彼らが抗議しているものに対して同じことをすべきです。間接的な結果を考慮するならば、自然界の搾取の多くが非常識で採算が取れないことが認識できます。パイプラインも炭鉱もそうであり、私たちが気候への悪影響を知りながらも無謀に燃やしつづけてきた炭素にも当てはまります。

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ブルドーザーによる周囲の樹木の伐採を阻止するため、体を張る活動家。

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警察はロープを切った。

企業が得ているもの、というよりもむしろ法律や規制を設け、施行する側が企業に与えているものを表す言葉があります。「外部化されたコスト」です。言い換えれば、私たちはその企業と株主に利益を与え、コストを分散させることで、採算が取れるようにしているのです。たいてい、それは地元地域、環境、気候、そして地球に対するコスト、つまり代償です。化石燃料の採掘や燃焼、乱獲漁業、労働者搾取、工業型農業の追求による土壌破壊や水質汚染などです。

多くの場合、利益は短期的なものであり、喪失は長期的なものであるため、価値をどのように見積もるかは、時間の尺度も重要な要因となります。外部化されたコストの別の言葉は、利己主義です。これは私にとっては好都合だけど、他人や未来の人にとってはお気の毒さま、という態度です。『ザ・ガーディアン』は10年以上前にこう報じました。「世界の大企業が引き起こした自然環境への汚染やその他の損害の代償は、もし彼らが金銭的責任を負った場合、その利益の3分の1以上を帳消しにするだろう」

低品質の石炭を燃やすことで気候におよぼす悲惨な影響を査定するならば、地面からえぐり出されるのは利益でも保障でもなく、損失と破滅です。何世紀にもわたって耕されてきた農地が失われるのです。この場所の歴史と同じ長さの未来を思えば、何千年にもわたって耕作できる土地を失う代わりに、汚い燃料で短期的に利益を得ることは、経済学的に間違っていることがわかります。

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安全ネットにより、多くの活動家がツリーハウスや電柱のネットワークに参加することができた。

つまり、一切の採炭の中止を求める抗議者たちは、一切の採炭の中止という、非常に具体的で明確なことを要求しているのです。そして彼らは原則に基づく行動をとっており、その原則とは、間接的な影響と外部化されたコスト、つまり長期的な健康を考慮し、目先だけでなく全体像を把握するということです。それは、連結性、不可分性、連帯の原則、すべての生命との連帯、遠い未来との連帯、また北半球で引き起こされた気候変動の影響によって南半球に住む人びとが苦しむことのない権利を守る連帯、という原則です。

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夜間勤務。

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おーい、ライトはあるか?活動家たちは通常、12時間のシフトをこなした。こっそりおむつを替えることからも、その献身ぶりがわかる。

現場で命がけで闘う人びとも、ドイツをはじめ世界各地から支援する人びとも、そうしたすべての活動家たちは世界的な運動の一部です。それは民営化された私益よりも地球と生命に価値を見出し、四半期ごとの利益よりも長い時間を念頭に置いた運動です。それは、力強さ、多様性、精巧さ、影響力を増しつづけています。そうした彼らの姿は、私自身の決意を強め、理解を明確にしてくれます。そう感じているのは、私だけではないはずです。今年はじめにリュッツェラートで起こったことは、数々の種を蒔きました。その種を探し、水を与え、さらなる種を蒔きましょう。気候変動活動の勇気ある行動から、可能性の庭が生まれるかもしれません。

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1月11日、警察の “登山部隊 “がツリーハウス活動家の多くを連れ去った。

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