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ガソリン0リットル

ストラットン・マットソン  /  2022年10月26日  /  読み終えるまで9分  /  スノー

カリフォルニア州のマウント・ホイットニーからワシントン州のマウント・ベイカーまで、人力でやり遂げることにこだわった2021年春の旅の記録を紹介します

車は使わず足とペダルのおもむくままに。除雪されたばかりで自動車の通行がまだ再開されていないカスケード・レイクス・ハイウェイを走るストラットン・マットソンとカエル・マーティン。写真:コルトン・ジェイコブス

全ての写真:コルトン・ジェイコブス

路上で過ごした103日
バイクで42日
スプリットボードで45日

3日目
カリフォルニア州シエラ・ネバダ山脈南部

3月なのに、シエラでは6週間もまるっきり雪が降っていない。平均を大きく下まわる積雪は、すでに強風でピカピカになっていた。だが僕らがこの旅をはじめる直前、4千万年の歴史を誇るこの山脈の岩だらけの斜面と不毛の頂は、60センチ以上の新雪の恩恵を受けた。しかしその美しい覆いの下には、危険なほど薄い積雪という事実が隠れている。

新鮮なパウダーの下の岩にいつブチ当たるかと、頭のどこかにつねに恐怖があった。僕らは無傷で興奮冷めやらぬままバイクに戻り、旅の幸先の良さに浮かれた。そしてテントに戻った僕が目にしたのは、マンモス・レイクス市からの立ち退き通告だった。のちに地元の友人から聞いたのだが、僕がテントを張った場所の近くに、その夜アーノルド・シュワルツェネッガーが泊まっていたそうだ。シュワルツェネッガーってスキーするのか?

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タイオガ・パスでパウダーを共有。カリフォルニア州

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マンモス・レイクス周辺のホット・クリーク温泉で、「バイク・トゥ・ボード」における重要な回復プログラムを実施中。

38日目
カリフォルニア州マウント・シャスタ

自然食品店や登山店のローカルたちからは、いままで目にしてきたなかでも最悪のコンディションだと聞いていた。それでも楽観的な僕は、きっとまだフワフワの楽しい雪が見つかると確信していた。その期待は異様なほど気まぐれな天候によって、すぐに裏切られたが。思い知らされるのは、雪と安定した水資源の未来は気候変動の影響の悪化により、さらに不確かで乏しくなるばかりだということ。だから僕は自転車で移動する。問題の一因となるか、いますぐ前向きな変化の一部となる挑戦をするかは、自分次第だから。

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出発後まもなくの野営地で夜を過ごす著者。カリフォルニア州マウント・ホイットニーからワシントン州マウント・ベイカーまでの「バイク・トゥ・ボード」。その旅の開始地点へは、妹と一緒にヒッチハイクでたどり着いた。

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自転車の旅に修理はつきもの。ひび割れたフレームにちょっとした修理を施すストラットン。購入して1年のサーリー・オーガは、フレームにひびが入ったものの、パンクはこの旅で一度もしなかったそうだ。確率としてはどちらがよいのだろうか。

62日目
オレゴン州スリー・シスターズ・ウィルダネス

起床したカエルと僕はスリー・シスターズのミドルとノースへと向かった。だがその日の出発後すぐ、バイクに妙なぐらつきを感じる。スポークが折れたのだろうか?いや、驚くことに、フレームの溶接の部分にひびが入っていた。幸運にもフレームは鉄でできている。コルトンはすばやく彼のネットワークを駆使し、地元に溶接ができる友人がいないか探してくれた。ひびに気がついてから4時間後には、僕のバイクはコルトンの友人の修理を終え、問題なく走れるようになった。たぶんひびが入る前よりもしっかりと溶接されているに違いない。

おかげで僕らはリズムを失うことなく、予定どおりにトレイルヘッドに到達することができた。シスターズでは、周囲に力強く立ちならぶ火山のなかでも、かなりよいザラメ雪の収穫を得ることができた。南には僕がここまで滑ってきたいくつもの火山が連なり、北にはマウント・セント・ヘレンズをいちばん奥にして、これから滑る残りの火山が見わたせた。

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コール・クリークの山火事の跡で、臭い足を老犬のように乾かすカエル。この数十年間で起きた山火事の多くは、スリー・シスターズ地域のほとんどの森林をこのように焼き尽くした。

72日目
オレゴン州マウント・フッド

「3月の奇跡」は起こってはいたものの、ひどい日照りで、旅のほとんどが強い日差しによるシャバ雪状態か、運が良ければザラメ三昧となっていた。だがそれも5月21日にマウント・フッドに到達するまでだった。嵐が夢のようなフレッシュなパウダーでくすんだ斜面を覆ってくれたのだ。山頂のたった数百メートル下に連なる雲堤の端まで登ったが、僕らは山からの忠告を受け入れ、登頂はあきらめてそこから下に向かって数千メートルの無上の喜びへと身をゆだねた。

翌朝、目を覚ました僕は体を起こす間もなく嘔吐した。ふたたび山頂に挑戦する気は、一気に失せた。代わりに、この旅でいちばん低い標高まで降りることにした。フッド・リバー沿いの曲がりくねった道をバイクで約1,500メートル下り、海抜約60メートルの雄大なコロンビア・リバーの川岸まで降りた。ここワシントンの州境で、親友のアレックス・コラー(僕の知るかぎり最もカリスマ性のある熱い男)と合流した。ワシントン州の最後の5つの火山で一緒にバイクライディングしようと、川岸のオークの老齢樹の下でアレックスのバイクを調整した。しかしバイクを走らせるとすぐ、アレックスのタイヤは大きな破裂音を立ててぺちゃんこになった。「これって幸運の兆しだよな」と僕らは言った。マウント・アダムスへの道のりはこの旅で最も長くつづく上り坂で、その日が初日だったアレックスの脚の痛みは相当なものだった。だが土砂降りの雨ですら、彼の精神を削ぐことはなかった。トレイルヘッドに到着して差し掛け小屋の屋根を見つけたときは、とてつもない感謝の気持ちでいっぱいになった。

ハイウェイ沿いをバイクで移動していると、たくさんの人が声をかけてくれる。車を道路脇に停めて冷たい飲み物をくれたり、僕らがどこへ向かっているのか、なぜそこを目指しているのか興味津々で、話は尽きなかった。「これじゃなかなか進めないな」と僕らは言った。

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春のザラメ雪の成熟とともにキバナカタクリが咲きほこる、カスケード山脈の最も奥地にある火山。著者はこの火山の麓にたどり着くまで、いちばん近い道路から24キロも歩かなければならなかった。ワシントン州グレイシャー・ピーク・ウィルダネス

87日目
ワシントン州トレド

夜更けに、空いているテントスペースを探して、ある家族が車で入ってきた。すでに数時間そこでくつろいでいた僕らは、泊まれるよと声をかけた。暗闇のなかでキャンピングカーをバック駐車するのに苦労していた彼らを見て、アレックスは運転を代わると、一発できれいに停めてみせた。翌朝、僕らは彼らの息子にパンクの修理の仕方を教えてあげた。パンクしたタイヤが「ぐにゃっとしていて牛のお尻の肉みたい」と冗談を言いながら、彼ははしゃいだ。

道中で出会う人たちは、僕らの話に熱心に耳を傾けて、旅の意義を共有する機会を与えてくれた。人との交流を通じて真の意味でエネルギーを共有し、他の人に刺激を与え、彼らの人生に変化をもたらすことができるということに、僕は気づきはじめた。心を開いてみずからの繊細さを見せると、他の人も心を開いてくれることが多い。僕らの心は情熱をもって生きる人と出会うと、大きく開くものなのだ。

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光を追いかけながら、シエラらしい廊下を落とす。

2021年7月
ワシントン州マウント・ベイカーに到着してから30日後

出発前は、なぜこの旅をはじめて、どこで終わらせたいのか、それしかわかっていなかった。僕にとって気候変動の深刻な影響と脅威は、不可避な現実であり、具体的なものだ。僕が暮らすオレゴンの地元でも、氷河は小さくなり、貯水池は枯れ、過酷な熱波や壊滅的に大規模な山火事が絶え間なく発生している。この気候危機における自分の役割を、日常の行動から切りはなして考えることはもはやできないことに気づいた。

化石燃料を使って車でトレイルヘッドまで移動したり、スノーモービルで目当ての地形に到達したり、海外に旅して山を滑り降りる快感を得たりするのは、自分の認識とは足並みが揃わないのはわかっていた。この事実に気がついてしまったら、僕に活力を与えてくれるもの自体の消滅の一因になるなんて、もうできない。トレイルヘッドまで車で行くたびに、僕にとっては現実的に、未来の世代のターンがひとつ減ることを意味する。

僕は自分が滑るすべてのラインまでバイクで移動することを誓う、という自身への挑戦にひらめきを見つけた。僕は雪上のライドを追求するため、使う化石燃料を可能なかぎりゼロにしたかった。2年間地元の山々にバイクで行き来してから、距離を感じたり他の地形を知るために、太平洋海岸山脈に沿ってペダルを漕ぎながらスノーボードをしようと僕は決めた。2021年3月にカリフォルニア州コンビクト・レイクを出発し、終点のマウント・ベイカーまで移動距離1,600キロメートル、そのあいだに並ぶ火山は10峰以上。死んだ恐竜からできた石油を燃やすことなく、スキーやスノーボードを楽しむことができると証明したかったのだ。

この経験で大きな変化を遂げたのは僕だけではなく、親友アレックスの人生も影響を与えられた。そして彼がカヤックの事故で不幸にも亡くなったいま、あのときに一緒に来てくれたことを、あのとき以上に感謝している。僕はまだ、彼が逝ってしまったということに気持ちの整理がつかないでいる。彼はあの旅をこう振りかえっている。「『バイク・トゥ・ボード』は、冒険的要素と同じくらいその動機にも意義がある。人類が進化しなければ、僕らは母なる地球を居住不可能なゴミ溜めにしてしまうだろう。現代生活の快適さを押しのけ、この惑星で生きることについて考え直さなければならない。

僕にとっては、何が可能なのかをあらためて想像することが、この旅の意味そのものだった。ちょっとしたひらめきが生まれただけで、心と精神は変化する。最初は僕には向いていないと思っていた旅が、いまでは人生最高の大冒険のひとつとなった」

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キャンプ地に戻るまで、夏至の光のなかをサーフィン。ワシントン州ノース・カスケード山脈

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