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一歩一歩進んでいく

ケイト・ラザフォード  /  2020年4月21日  /  読み終えるまで7分  /  クライミング, 食品

〈Farm to Crag〉を共同創設したケイト・ラザフォード、ジュリー・フェイバー、リンダ・タイラー。 

私は1月にモンタナの羊牧場にあった、教室がひとつだけの校舎で生まれた。その4か月後にアラスカに引っ越した両親は、森のなかに山小屋を建て、私のためにブランコと空中ブランコも作った。何年間も、私が知っていた交通手段は犬ぞりだけだった。夕食にはサーモンやカモやヘラジカを貯蔵室に保管してあるジャガイモやキャベツと一緒に食べ、デザートはブルーベリーだった。どれも私たちが狩猟、採取、栽培した物だ。私はそんな風にアラスカ奥地の食べ物で育った。のちにそこを去ることになったが、いまでも母は畑でたくさんの野菜を作り、父は狩りや釣りをつづけている。

私は20代のときにパタゴニアのクライミング・アンバサダーになった。季節ごとに岩場から岩場へと移動しながら、トラックやバンや古いエアストリーム製トレーラーで10年間暮らした。食事は仲間と一緒に、またはひとりで車中の小さなコンロで調理した。2012年にクライミングパートナーとセロ・フィッツロイの南壁に新ルートを開拓した。アルゼンチンではそのような偉業は地元の子羊の網焼きで祝福し、皆が自分のナイフを持ってアサド(焼肉)にやって来る。数年前、ティトンでのクライミングの休息日にイヴォン・シュイナードと釣りに行った。イヴォンはサワードウのパンとリンゴとチーズ、そして3種類のムール貝の缶詰をランチに持ってきてくれた。缶詰は新たにはじめたパタゴニアプロビジョンズの製品で、味見が必要だった。「この小さな二枚貝は世界一のタンパク源だ」とイヴォンは断言した。そして私たちは食べ物について話しはじめた。

「ところで、『リジェネラティブ・オーガニック(RO)』農業は、地球温暖化を食い止めるのに人間ができる最善の方法だと知っていたかい」とイヴォンが言った。

「えっ?」私は驚くと同時に戸惑った。「公有地を守るのが私の任務だと思っていたんですけど!」

「ああ、それも重要だ」と彼は言った。「だが、僕らの誰もが1日3回食べなきゃならない。健康な土壌とリジェネラティブ・オーガニック農法は、大気中の炭素を隔離して、気候変動を逆転させる可能性があるんだ」

それからイヴォンは私に『The Soil Will SaveUs(土が私たちを救う)」を読むように勧めた。のちにこの本を読み終えた私は、「大匙1杯の土に生存する何十億もの微生物は、植物が大気中から吸収した二酸化炭素を生命の源である土壌炭素に変える」ことを学んだ。イヴォンの新たな目標は直感的に理解できた。自然にはバランスが必要であることはすでに十分承知していた。キツネはウサギの数を抑え、ウサギがニンジンを食べ尽くしてしまうのを防ぐ。菌根菌は植物の根に栄養素を与え、その引き換えに糖分を吸収する。そして土に空気を循環させて保水力を高め、枯れ葉や石や泥をリンや鉄分など、その他の有効な微量栄養素に分解する。このバランスを農薬や化学肥料で崩すと、土は死んでしまう。きれいな川から釣った魚やきれいな土で1回はケールサラダを食べ、岩壁ではパンとチーズ、リンゴとニンジン、あるいはアーモンドや前夜のサーモンの残りを食べると調子がいいことも学んだ。

私は自然の食べ物を主要燃料とするよう心がけた。私が子どものころ、そして人間が進化の過程でそうしてきたように。しかし、大がかりなクライミングに挑んだ1日の終わりにオーガニック農産物の直売所や手厚く育てられた動物の肉を探すのは、ほぼ不可能だった。とくにケンタッキーの森やユタの田舎では。

自分の家の庭にも野菜を植えたが、まもなくイランやスペインやケニアやチリへと遠征することになった。クライミングは世界を見るための一風変わった方法で、また同時に自分の周囲の仲間たちと独特な親交を結ばせてくれる。クライミングに行った場所では、たんに体にいい食べ物を見つける方法だけでなく、その場所との深い関わりを築く機会を、私は望んだ。

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ガリシアの冷たい水で育つムール貝のあいだを潜水中のケイト・ラザフォード。スペイン 

スペインではパタゴニア プロビジョンズのムール貝を育てる家族に会った。ペレス・ラフエンテ一家が招待してくれたのは神話的な山脈の近くの家で、その山脈のピコス・デ・エウロパには、ピキュ・ウリエリュと呼ばれる石灰岩の素晴らしいビッグウォールがある。彼らと一緒に何度も素晴らしい食事をしながら、私はムール貝が進化とともに潮流の境目に生息するようになったこと、そしてその絶えず変化する環境で驚くべき回復力を見せることを学んだ。ムール貝は極小の植物プランクトンを餌にしながら、他の生物のために水を濾過してきれいにしてくれる。人間がスペインのガリシア地方の冷たい大西洋の海水でムール貝の養殖をはじめたのは13世紀。のちに世界大戦が勃発すると缶詰の需要が高まり、魚介類の養殖、缶詰製造、船舶輸送の巨大産業が出現した。ペレス・ラフエンテ家は4世代にわたって海産物業を営み、またヨーロッパではじめてオーガニックによる生産を専門とした。一家は気象が変わり温かくなっていくのを世代を超えて目の当たりにしながら、冷水に生息して地元地域を支えるこの小さな二枚貝の適応性をよりいっそうありがたく思うようになった。

私はここでの経験を活かし、クライマーと地元のオーガニック農作物の栽培者を結びつけることを目的に、リンダ・タイラーとジュリー・フェイバーと力を合わせて〈Farm to Crag(ファーム・トゥ・クラッグ)〉を立ち上げた。それぞれのクライミングエリアの地元で採れる食べ物、ファーマーズ・マーケット、農産物の直売所の地図を作り、食べ物について学びながら、クライマーが一緒に調理したり食べたりできる仲間たちの集まりを開いた。目的はクライミング先で季節ごとに地元のオーガニック食品を入手し、近隣の地域とより親密な関わりを築けるようにすることだった。私は農家の人たちに会えば会うほど、農業はひとつの芸術形式であることを実感し、それを力説したくなった。

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〈Farm to Crag 〉の初イベントで土壌科学と農作業について学ぶ参加者たち。
カリフォルニア州キャシーズ・バレーPhoto:Eric Bissell

2019年10月、私たちは第1回〈Farm ton Crag〉の集いをヨセミテ・バレーから近いキャシーズ・バレーのロー・ルーツ農場で開催した。そこで一緒に料理を作り、それを食べ、クライミングをした。土壌の科学と炭素の循環についてレベッカ・ライアルズ教授から学び、機能栄養士でもある共同創設者のリンダ・タイラーが健康を促進する健全な植物の栄養素密度について話し、またバンのなかのような限られたスペースでも実践できるザワークラウトの作り方を教えた。草取りをし、耕し、収穫し、堆肥を重ねて苗床の準備もした。そしてハーフ・ドームの下で、ハート型のニンジンを描いたハガキにここで学んだことを活かす誓いを書いて、集いを終えた。

犬ぞりと母の畑ではじまり、緑葉野菜やエルクの生息数に関する実験をしながら生物学の学位を取得し、プロクライマーとして流浪生活を送り、やがて自分の畑に野菜を植えるという面白い道筋を、私はたどってきた。そしていまではオーガニック農家に、リジェネラティブ・オーガニック農業に、土壌の健康に、自然のバランスに(そしてアンバランスから発生するケールのアブラムシに)より深い敬意を抱いている。もちろん、クライミングを愛し、食べることを愛する。しかし、愛だけでは不十分なことも学んだ。口に入る物にお金を費やし、リジェネラティブ・オーガニック農業を支援し、私たちの心と体と魂に同時に糧を与えてくれる自然の過程を支援する。なぜならそれが気候変動を覆すことになるのだから。私たちが食べ方を変えれば、食べ物はある種のアクティビズムとなる。

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