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織物に託す自由

アーチャナ・ラム  /  2022年8月4日  /  読み終えるまで9分  /  フットプリント, アクティビズム, コミュニティ

インド人の自立の象徴がなぜ再び重要なのか。

photo: Sara Otto

全ての写真:Sara Otto

マハトマ・ガンジーの遺志は、しばしば「もの」の中に宿る。

彼がまとっていた粗末なドーティは、インドの貧困社会との親密な関係性を築くための意図的な手段だった。英国の植民地支配に抵抗するためにガンジーが展開した「クイット・インディア」運動の中で、象徴的なハンガーストライキを行い、食料の不足を訴えた。塩は、塩税に抗議する400kmに及ぶ行進のきっかけとなった。いずれも非暴力による抵抗のシンボルだった。しかし、ガンジーによれば、彼の思想とインドの独立への道のりを最もよく言い表しているものがある。ガンジーは次のように言ったと伝えられる。「私にとって、政治の世界の何よりも重要なものがあります。それは糸車です」

ガンジーの言う糸車とは「チャルカ」という手動の糸紡ぎ機である。そのチャルカで紡いだ綿を原料に織られ、軽量で通気性の良い布が「カディ」と呼ばれる生地だ。ガンジーは、自身が活動した1900年代初めに、数世代にわたって受け継がれてきたこの工芸品を、インド人の綿花栽培を長く搾取してきた英国の植民者に抵抗する道具へと変えた。カディはインド人の自立への道となりうるものだった。(ガンジーがカディの紡績工を「自由の戦士」と呼んでいたという話もある)

織物に託す自由

ウドヨグバーティで、職人がカディの材料になる天然染料された綿糸を手で紡ぐ。カディの生産に使用されるチャルカ車は、1900年代初め、たちまち自立のシンボルになった。この機具は一時期、インド国旗に描かれていたこともある。

300年近い支配が終わり、1947年、ついに英国はインドを去り、インド政府はカディを公式に認めるようになった。1956年には、インド全域で家内工業やそれらによる多数の工業組合を管理する「カディおよび農村産業委員会法」(KVIC)が制定された。それらの工芸は現在も、小さな工房や職人の家庭内で営まれており、担い手は農村社会の女性である。そこでは伝統的なマリーゴールドのガーランドが戸口に飾られ、チャルカのかたわらにチャイのカップがあり、日中は近所の猫が戯れている。

その歴史、職人技、それら労働者の社会的・経済的な機会こそが、パタゴニアがカディ職人と協力するうえで最も心躍らせたことだ。そして6年の時を経て、インド、グジャラート州各地の村を拠点とする117人の職人による、手織り、オーガニックコットン、天然染料のカディのコレクションを発表した。インドで栽培し収穫された100%オーガニックコットンを使用し、パタゴニアのカディは、金属製のチャルカで手紡ぎされ、裁断・縫製される前に天然のインディゴで手染めされている。

「カディによって、また1つ新しい社会的責任のストーリーがはじまります」パタゴニアでライフアウトドア部門を率いるヘレーナ・バーバーは言う。「それは、物作りや手仕事という、ファストファッションの世界で失われてしまった要素を大切にすることです」

手作りの衣料品は、ある意味、ファストファッションと対極にあるかもしれないが、劣悪な賃金、児童労働、危険な労働環境など、共通する多くの問題に悩まされる可能性はある。適切なサプライヤーを探しはじめたとき、このような小規模産業に対して、パタゴニアは通常の審査プロセスを設定しないことが明らかとなった。非正規の労働環境は、ほとんど文書化されないまま、分散化されていることが多い。このような構造の欠陥は、必ずしも意図的なものではない。ただ数十年に渡って、ビジネスが行われてきたように。

「かつて一度もコンプライアンスについて、何も要求されなかった下請け業者に対して、賃金設定を開示し、児童労働に注意したり、あらゆる業務慣行を監視するには、どのようにすれば良いでしょうか」パタゴニアの原材料開発責任者であるサラ・ヘイズは疑問を投げかける。「多くの場合、最大の難関はコンプライアンスよりも、むしろ習慣や意識を変えることです」

職人に安全で公正な条件や長期的サポートを提供しようとするパタゴニアの目標に賛同してくれるサプライチェーン・パートナーと協力していることに確信が欲しかった。そこで私たちは、職人の福利厚生を保証し、世界の手工業経済に対して可視性をもたらすために認証マークを開発していた非営利団体ネストに連絡をした。

織物に託す自由

手織り職人のカンクベン・マンスクバーイ・マンワールは、インド、グジャラート州農村の自宅で仕事をする。この地域の織物職人である夫から技術を教わったマンワールさんは、もう数十年にわたりこの仕事を続けている。2人は交代で織機につき、カディを織る。

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左:職人がインディゴの桶で綿糸を手染めする。数回ひっくり返しながら、デニムの深い青色になるまで糸は浸け置かれる。インド、グジャラート州ウドヨグバーティ。
右:ラージコートの村にある生産本部では、専用の道具や機械が待機している。

「文化が異なる環境では、家内労働や手工芸は副業と見なされています」ネストのチーフ・コミュニケーション&アドボカシー責任者のベニータ・シンは言う。「業者の中には『どうせ内職だから、少しの金を払えばいいだろう。本人たちは仕事にする気がないのだから、これは臨時収入だ』と考える人もいます。ネストの『ネスト・エシカル・ハンドクラフト・プログラム』では、ビジネスオーナーを対象に、人々は何世紀にもわたって家で仕事をしてきたこと、そしてそうした仕事にも、労働に対して適正な賃金を受け取るという基本的な経済的・人間的権利が適用されることを教育しています。自宅で創作・生産活動に従事する手工芸労働者(そのほとんどは女性)は、健康・安全の保証にせよ、出来高賃金の支払記録の署名にせよ、自身が当然受ける権利のある保護について、必ずしも教育されていません」

パタゴニアはネスト・エシカル・ハンドクラフト・プログラムの開設に協力するために、2014年に創設メンバーの一員として、初めてネストと提携し、そして2017年にこのプログラムは正式に始動した。ネストは、手工芸事業者のほとんどがコンプライアンス教育を受けていないことを承知しており、そこで審査プロセスに先立ち、18~24か月の教育・研修プログラムを企画した。事業者は必須基準を満たすとネストマークを取得できる。合計で5カテゴリーにわたる100のコンプライアンス基準がある。5カテゴリーとは、「労働者の権利・ビジネスの透明性」「子供の擁護・保護」「公正な報酬・福利」「健康・安全性」「環境への配慮」である。

パタゴニアはパートナーを見つけるのに苦労はしなかった。インドでの長年のサプライヤーであるアービンド社が、2013年から協同組合ウドヨグバーティ(KVICにより発足)と協力し、10年前にカディ・デニムの製造を開始していた。アービンド社の方でも、この非公式の経済に仕組みと資本を注ぎ込みたいと考えていた。ネスト・プログラムを通じてアービンド社に連絡すると、同社はブランド企業、サプライヤー、政府、職人という多様なステークホルダーを整理し、調整することに協力してくれた。

アービンド社は2019年、最初の評価で審査にパスしたが(これは当たり前というより、むしろ異例)、審査が終わればおしまいではない。ネストは毎年、各職人にプログラムの影響を評価するための調査を実施している。昨年の「労働者の幸福度調査」では、ネストが面談した女性職人の100%(その中にはアービンド社のサプライチェーンで働く約100人の女性が含まれる)が、自分の工芸収入によって子供に正規教育を受けさせられると言い、また94%は雇用されたことで、家庭内での意思決定権が向上したと感じていた。職人達はたいてい新しい家、教育、医療を優先している。中には、スマートフォンや移動手段のバイクを購入できたとか、あるいは自分の結婚式の費用がまかなえるようになったという人もいる。また定時勤務ではなく出来高払いなので、自身のペースで子育てや家事をするうえで不可欠な柔軟性が確保されている。

「この工芸品はただの物ではなく、はるかに深い価値を秘めている」とバーバーは言う。「それは社会的地位を向上させることです」

しかし、アービンド社のサステナビリティ責任者であるアビシェーク・バーンサルが説明するように、歴史的・心情的な重要性とは関係なく、時代は変わり、スタイルは変わり、関心もまたしかりだ。約10年前、カディの需要は減少しつつあり、政府の努力にもかかわらず、この手紡ぎ手織りの工芸は忘れ去られていたかもしれなかった。それに合わせて生産量の増減もあり、こうした浮き沈みのある状況の中で、多くの職人は安定した収入を得られないまま放置されていた。

小規模事業者が成功するかは、結局のところ、労働者に安定した収入をもたらす一貫した定期的な注文があるかどうかだ。アービンド社は適正価格をウドヨグバーティへ支払うことを保証しており、それはこの組合が職人に(ネストが査定済みの)最低賃金以上の給与を支払う助けになる。現在、KVICに基づく政府からの支援が更新され、加えてブランド各社やネストのような非営利組織の協力もあって、若者が大都市に移住せず、地元のカディ経済に参加するようになっているとバーンサルは認めている。

「アービンド社は、職人との協力を通じて、そこに現代的な意味を与えて伝統工芸を復活させるという哲学を追求しています。産業レベルまで大規模化するのではなく、フルタイム職人を支え、これらの人々が認知され、生計を立て、仕事に従事し、さらには徐々にスキルを高めていけるようにするのです」とバーンサルは言う。

反産業主義的な感情は、特に個人の中にはっきりと見て取れる。ヘイズとバーバーは、2019年にある職人を訪ねた際、その違いに圧倒された。

ヘイズが言うには「これまで膨大な数の工場や織物工場を視察しました。そうした大規模工場に行くと、とても効率的ですが、騒音がひどい。工場用の照明もあります。必ずしも心地よいところではありません。その後に、村を訪れるでしょう。するとそこでは人々は家族を養うために家を離れなくていい。膨大なエネルギーを費やして稼働するあの数百万もの機械もないから、平和で静かです。心に触れるものすべてがまったく違うのです。」

本質的に、カディは環境負荷も低い。機械織りの製品と比較すると、パタゴニアの2022年春のカディ製品の炭素強度は34~38%低い。この数世紀にわたる伝統が、今日もなお重要とされるもう1つの要因はそれだとバーンサルは言う。

「カディには、人々の暮らしから、工芸・伝統、そして環境に至るまで、360度の全方位的な側面があります。カディの影響は、目に見える人々への影響を超え、この国の社会経済環境にも及びます。カディはゆっくりとした物作りの哲学に回帰し、そうした生産行為がまだ持続可能であることを世界に示そうとしています」

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