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ジッパーをやっつけろ!

サキアス・バンクソン  /  2021年3月25日  /  読み終えるまで6分  /  Worn Wear

Every piece of gear will eventually wear out, and it will likely be the repairability of a zipper that decides its fate. Designer Casey Shaw and climber Steve House examine the crux of a new jacket's longevity. Ventura, California. Photo: Kyle Sparks どんなギアも最終的には壊れてしまうが、おそらくその運命はジッパーを修理できるかどうかにかかっている。デザイナーのキャセイ・ショーとクライマーのスティーブ・ハウスは、新しいジャケットの耐久性の弱点を検証する。カリフォルニア州ベンチュラ Photo: Kyle Sparks

オースティン・ロッブズは、ジッパーが完璧だと思っている。だからこそ嫌いなのだ。

パタゴニアのギア類の製品ディレクターとして、ロッブズはこの150年以上の歴史を持つ精巧な仕掛けを知り尽くしている。毎日これらを使用して、高性能なアウトドア用バックパック、ダッフル・バッグ、寝袋を設計しており、ボタン、マジックテープ、マグネットなどのほかの留め具と比べたその秀逸さを知っている。そして壊れたジッパーが、ほぼ修復不可能で、交換は悪夢であることも。

「長年敬遠してきたけど、困ったことにこいつらの仕事は完璧なんだ」ロッブズは言う。「それは何よりだけど、バックパックにジッパーを取り付けるたびに、カウントダウンが始まったと感じるよ。最初に壊れるのはこいつらだからね。」

問題の一因はジッパーの構造である。プラスチック、ナイロン、または金属製の歯の連なりは、ジッパーテープに接着されるか、または一体型に成形されており、それが周囲の布に縫い付けられている。連なる歯は、反対側の対応する歯の溝にぴったり合うように設計され、それらがスライダーによって閉まったり、離れたりする。それはとても繊細で優雅な設計だが、短命なことで悪名が高い。

「ジッパーが機能する仕組みを考えれば、噛み合っている歯全体が外れたり、布を噛んだり、あるいは単にどれかが欠けてよじれたりすることは起こり得るから、やがては壊れるよ。砂や汚れで摩耗するし、家庭で直す方法はない。袖口のマジックテープは取り替えればいいし、肘の穴には当て布をすればいいけど、ジッパーがダメになったらそこまでさ。」

ジッパーをどれくらい容易に交換できるかは、ほとんどの場合、どのように装着されているかによる。例えば、ダウン・ジャケットのジッパーテープが、本体の生地に直接縫い付けられているか、接着されている場合、この縫い目を解くことで、ダウンの端に開口部ができる。羽毛の爆発はあまり問題ではないけど、大量の羽毛に対処することは極めて困難で、専用の陰圧室が必要だ。

「処理するのは戦争のようさ。ラメみたいなもので、自由を得た羽毛は永遠に漂う。風が吹こうものなら、あっという間にあたり一面に拡散する。」

ジッパーをやっつけろ!

壊れたジッパーが修理可能だとしても、それは外科手術になりかねない。さいわいパタゴニアのリペアセンター(ネバダ州リノ)には腕利きの職人がいる。Photo: Keri Oberly

かつてこの問題が特に重要とされたプロジェクトがあった。パタゴニア初の寝袋の設計である。優先されたのは心地よい温もり、軽量であること、コンパクトさ…そこまでは想像に難くない。いずれもダウン・ジャケットで培った同社の数十年の深い経験が生かされていた。しかし、このチームのちょっとしたイノベーションは、寝袋の寿命とそれを将来修理する技術者の精神衛生に着目したことから生まれた。

ロッブズは言う。「寝袋の構成部品は多くない。破損するとすればジッパーだけだ。修理する方法は2つに1つ。羽毛を全部取り出して、何らかの方法で保管し、再び全部を中に戻す、もしくは古いジッパーを取り外し、新しいものを付けることが簡単になるように製品を作り変えるしかない。」

ギルバート・バルデスの仕事の中心は、とにかくこうした先手を打った問題解決である。バルデスはパタゴニアの品質研究における戦略家で、壊れたジッパーの修理・交換歴は5年。最初はネバダ州リノのリペアセンター初の技術者として、その後量産前のサンプルを検品する品質監査担当者になった。ずっと古い製品を修理してきた経験から、バルデスは新製品の潜在的問題について鋭い洞察力を身に付けたが、そうした問題点の多くは、製造仕様を決める際に修理しやすさを考慮しなかったことに起因している。

「修理しやすさに関しては、製作と生産の間にこうしたギャッブがあるんだ」バルデスは言う。「下請業者はこちらが提供するスペックに厳密に従うから、製作段階で手順を1つ見過ごせば、そのジッパーを取り外すことが悪夢になる。一度製品をバラバラにし、修理を試してみなければ、これらの点と点を結ぶことはできないよ。」

この種の先見の明によって、デザイナーは最終製品をほとんど変更することなく、こうした問題を完全に回避できる。例えば、ダッフル・バッグやバックパックの中には、内張りが完全仕上げのもの、つまり縫い目が隠され、どうしてもジッパーを交換できないものがある。しかし、デザイナーが内張りに縁飾りを加えるだけで、修理技術者はそこから縫い目にたどり着くことができるし、顧客は決してその違いに気付かない。

「修理に持ち込まれるかではなく、『いつ』そうなるかに発想を転換するんだ。どんな製品もいずれは何らかの理由で修理されると想定して、どんな小さな飾りもどんな小さなジッパーもバックルも、修理できるようにする方法はないか、もっと革新的に考えられるようにならなきゃいけない。今は一部の製品だけでやっていることだけど、これを全製品に広めようとしているところさ」バルデスは言う。

ジッパーをやっつけろ!

ジッパーの破損は衣料品にとって必ずしも死刑宣告ではないため、Worn Wearのスタッフは、常に多種多様な交換用ジッパーを備蓄し、衣類の生まれ変わりに備えている。Photo: Donnie Hedden

交換が面倒で、1つ間違えばアウトドア・アパレル「キラキラバージョン」が生まれること以外にも、ジッパーには欠点がある。それはリサイクルが絶望的なことだ。リサイクル品も少しは市販されているが、ほとんどはやわらかすぎて、テクニカルなアウトドア・ギアの過酷なニーズには耐えられない。もしそんなものがあったとすれば、それはあらゆる新しい可能性を拓くだろう。

「十分な強度を備えたリサイクルのポリエステルやナイロンを作れたら、ジャケット全体を同一素材で作ることができるから、理論的にはまるごと細断機に投げ込んで、リサイクルすればいい。いわゆる『ゆりかごからゆりかごへ』のものづくりだよ」ロッブズは言う。「けれど、そのためにはテープ、糸、ジッパーのすべてが、その同じ素材で作られている必要がある。そうでなきゃ、それらを全部分解して別々のリサイクル・ボックスに仕分けしなければならないからね。」

そうなるまでは、ジッパーは当面、ロッブズのようなデザイナーにとって最善の選択肢だ。いらだたしくもすばらしき必要悪。

「愛憎は紙一重ってとこかな。消したいんじゃなくて、何とかして超えてやりたい。奇跡の製品だけど、これほどのくせ者とは意外だよ。」

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