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『The Story of Stuff』にみる新たな社会運動のカタチ

 /  2011年11月24日 読み終えるまで8分  /  アクティビズム, フットプリント

「まずは無駄に購入しない、そして修理する、そのあと再利用する。製品のリサイクルはこれらの選択肢がなくなってはじめてなされるべきです。ですからパタゴニアがはじめた「コモンスレッズ・イニシアティブ」には、とても感心しています。必要ないものは買わない(リデュース)、まだ使えるものは修理する(リペア)、あるいは他に必要としている人に譲る(リユース)、そしてついに使い道を失ったものだけ再生のためにリサイクルする。これこそが、真の解決策なのです」
─アニー・レオナード 『The Story of Stuff』著者

『The Story of Stuff』にみる新たな社会運動のカタチ

パタゴニアでは今秋から、ウェアをより持続可能な方法で製造、購入、使用することで製品のライフサイクルの循環の輪を結び、着古したウェアから新しい製品を作り出し、パタゴニア製品を廃棄物として埋め立て地で眠らせないことを目的とした「コモンスレッズ・イニシアティブ」を開始しました。

アニー・レオナード氏の『The Story of Stuff』はモノが作られてから、消費され、ゴミとして廃棄されるまでの一生について描いた20分ほどの映像作品で、2007年にウェブサイト上で公開されました。以来『The Story of Stuff』は世界中に広まり、いまでは1,500万回以上の閲覧数を記録し、環境をテーマとしたオンラインムービーのなかで最も閲覧数の多い映像のひとつだといわれています。今日はこの『The Story of Stuff』の翻訳を手がけた照井里江子氏からのメッセージをご紹介します。

『Story of Stuff』ティーザー。FreeRangeStudio制作。本編は「インディーサテライト」のウェブサイトからもご覧いただけます。

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『The Story of Stuff』は教科書が教えてくれない世界情勢とグローバル化のカラクリを、皮肉とユーモアたっぷりに描いた作品です。環境破壊から、貧困問題、健康被害、消費行動など、一見バラバラに存在しているかのような事象が、意外と単純な因果関係でつながり、国境を越え、海を越え、世界規模で負の連鎖を生んでいることがわかりやすく説明されています。それが、モノの物語として、製品のライフサイクルをたどる手法をとることにより、資源と人間の出会いと作用にドラマ性を与え、最後まで目がはなせない仕上がりになっている――大袈裟なようですが、私は作品をみながら、世界の大きな「一直線の」流れを、川の中州に立ってドキドキしながら凝視しているような感覚に襲われました。また、ゆるいタッチのイラストやおしゃべりアニーの楽しい語り口調、愛嬌のあるセンセーショナリズムなどが、これだけ深刻な国際情勢を、とっつきやすいレベルに崩してくれているところも、この作品の魅力であると思います。

アニーのおしゃべりには苦心しました。英語が聞き取れなくても、彼女の矢継ぎ早なトークに情報量の多さだけは感じられたと思います。彼女が10年かけてリサーチした結論が20分に凝縮されているわけですが、字幕をつくる関係でさらに細部を落とす必要がありました。どこを切って、どこを残すか散々迷った挙句、知り合いの映像翻訳者さんの力をかりて、限界まで簡潔な言葉にまとめることができました。エッセンスが伝わっていればいいと思います。

 

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公開後、少し不安がありました。自分はこの作品に傾倒しているけれど、これが果たして日本の視聴者に受け入れられるのか――という点です。というのは、私は一日本人として、西洋発の正義論が日本人の価値観と相いれないところがあるのを常々感じているからです。

理想を掲げ、正しいことを唱えるのはある意味簡単です。正しいのですから、それだけで胸を張ってよいと主張する人もいます。ただ、それが視聴者に共感してもらえるかは別の次元にあると思います。日本は「善」なるものに触れたとき、「偽善」という問いかけを忘れません。ボランティアなどでよく取り上げられる視点です。例えば、アフリカの飢餓への取り組みを大々的にうったえるハリウッドスターよりも、原発事故から間もないころに、あるタレントが風評被害に悩むいわき市に支援物資を届けていたことが市民の目撃情報により発覚した、という話のほうに心を打たれた人も多いのではないでしょうか。私たちは正義をふりかざすことを手放しでよしとはしません。正義が諸刃の剣であることを知っています。売名行為を嫌います。正しいことも大事ですが、調和も大切にします。

『The Story of Stuff』が視聴者の価値観にどのように触れていったかは、私にはわかりません。コミック仕立てであっても中身は品行方正ですので、やっぱり敬遠されてやしないだろうか、そんなことばかり考えてしまいます。ですが、それを私が心配するのは見当違いですので、判断は観た人にゆだねましょう。訳者として望むのは、この作品を観た視聴者がみずからの行動を省みて、今後の選択を考えるための材料と判断力を養うことです。一過性の危機感をあおるのではなく、継続的な原動力を促す指針となることを期待します。

もうひとつ、欧米発の社会運動とのかかわりで、気づいたことを書きます。

環境問題や貧困、戦争など、いわゆる「社会正義」の分野で活動する市民団体は、欧米だけでなく、日本にもたくさんあります。日本でも先ごろは反戦デモやプレカリアート運動、反原発運動や、もっと最近では「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」の運動でもわかるように、若者が主体となって、不平等や不正にかみついていく運動が盛り上がりを見せています。学生運動が盛んだったかつての日本を彷彿させるのではないでしょうか。ただ、私が興味深く感じたのは、欧米の市民団体から発信される情報が、質、量ともに日本をはるかに上回っている点です。多くの若い力が、ウィットに富んだ洞察とメッセージを創造的な形で発信しています。その完成度はとても高く、社会運動として斬新であり、ユーモアにもあふれている――、しかもそれが生き方の提案へと発展しています。地球に負荷をかけず、貪欲な政府と企業を肥やさない生き方を選ぶ人びとは、一種のサブカルチャーとして、欧米の社会運動をリードしてきました。そして、生き方そのものの魅力を体現してきました。そこから生まれるメッセージは、時代の潮流に敏感な民主的メディアを通じて、若年層の正義感をくすぐりました。私は、このパワーと同時代性をぜひ日本にも届けたいと思っています。『The Story of Stuff』はアメリカ発ですが、さまざまな市民団体で活躍し、消費行動の改善や廃棄物ゼロ運動に携わってきたアニー個人が、アメリカの独立系のメディア制作会社に動画の制作を依頼し、さらに独立系のブログやSNSを通じて伝播したものであることも特筆に値すると思います。

そもそも字幕を作ったことのない私が、日本語版を担当させてもらえたこと、そしてこのブログを通じて、個人的な思いを主張させてもらえることがすべて、昔は考えられなかったことだと思っています。民主メディアは個人と個人の思いをつなぎます。このような社会運動の新たな形と可能性には期待が高まるばかりです。まだまだマイナーな作品だとは思いますが、こうして紹介していただくことにより、少しでも多くの方の目に触れ、心に触れ、「何か」をしでかしてくれる人びとが増えていけばと思います。

[  『Story of Stuff』本編は「インディーサテライト」のウェブサイトからもご覧いただけます ]

照井里江子(翻訳家)
学生時代からボランティア活動を通じて、国内外の貧困緩和に取り組んできた。またアジア各地を旅しながら深めた見聞と視点を生かし、大学、大学院時代はインド、ネパールに滞在して内発的発展のケーススタディなども行った。留学中にアルバイトではじめた翻訳を2000年より本格化。人権、環境、労働など社会科学分野に幅広い経験を有する。海外メディアが伝える環境問題や人権問題を取り上げて日本に紹介する「インディーサテライト」を立ち上げる。

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