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150マイルの実験

エリック・ノール  /  2023年11月10日  /  トレイルランニング, スポーツ, デザイン, ハイク

パタゴニアの高度研究開発デザイナーが、新しいパックの試作品をテストするためにスウェーデンの山岳地帯へ向かった。トレイルで数日間過ごす旅を再考する大胆な試みでもある。

全ての写真:エリック・ノール

ポルテスチューガン小屋の管理人は、私たちの小さなランニングパックを見て心配をした。相棒のダニとスウェーデンのバックカントリーへ半日かけ16km入ったところで、ランチに立ち寄ったのだ。計画では日が暮れるまでに20km先の山小屋を目指ざさなければならない。しかもそこまでに、2kmの湖をフェリーで渡らなければならない。強風を吹き上げて嵐が近づいていることを知っていたかって?そんな天気がやってくると、船は早めにドックに引き上げてしまう。

楽観主義と復活した脚のおかげで、森の中のシングルトラックをすばやく下り、広く開けたツンドラを横断し、最初の大きなピークの中腹に差しかかった。厚い雲の向こうを見下ろしたが、レトーレ湖の輝く一片はほとんど分からなかった。

数時間後、予定より30分遅れて湖畔に着いた。そこには手漕ぎボートがつながれていた。岸には必ずボートを置いておくのが地元の習慣であることは知っていた。つまり、このボートを漕いで湖を渡ったら、反対側の岸にある2つ目のボートを引っ張って2艘で戻り、最初のボートを返却して再び漕いで戻らなければならない。すでに今日は雨の中で険しい悪路を37kmも走っており、そのうえ白く波立つ湖面を5kmも漕ぐなどありえなかった。私たちは沈黙のまま、水辺に立つ物置ほどの大きさの避難小屋を目指した。

そこは手足を伸ばし、濡れた衣類を吊るして乾かすには十分な広さだった。中にはヨガマットが1つあり、それを床に敷いて、持ってくるのを忘れていたスリーピングマットの代わりにした。風が強まり、空が暗くなったので、薄いダウン製インナーシーツ(これは「万が一」のために持ってきた)に身を寄せ合い、その日泊まるつもりだった湖の向こうの山小屋からサウナの蒸気が立ち上る様子をじっと見つめた。

クングスレーデンへの旅のはじまりは、こんなはずではなかった。それとも、たぶんこうなるはずだったのか。

「王様の道」を意味するクングスレーデンは、ヘマヴァンからアビスコまで440kmのツンドラ地帯を縦断し、巨大なピーク群だけでなくカバノキの森、小川、湖沼、山小屋が点在している。ここには休暇を使って来たのだが、研究開発デザイナーである以上、どの山旅も実験の機会となる。今回もまさにそのとおりで、雨がちの変わりやすい天気、十分な距離と標高差、極めて走りやすいトレイルなど、クングスレーデンは数泊するための新しいトレイルランニング・パックを試すには完璧といえる多様な状況だった。

私たちの計画は、北部の150マイル(240km)を6日間をかけて走ることだった。1日当たり約40kmの距離と450~600mの獲得標高をこなしながら、山小屋を転々と移動する。そこには共同キッチン、雑貨の売店、ビール、サウナ、二段ベッドが、毎晩、私たちを待っている。だから、初日の晩に足止めを食らった時、皮肉に思った。休暇という観点からは、これは最悪だ。しかし、実験という観点で考え直すと、まさに私が求めていたものだった。

仕事は何をしているかと人に訊ねられると、美術や工芸と答える。結局のところ、研究開発デザインとは、そういうものだからだ。存在しないものを見つけ形にする。時にはアスリートが欲しいと思ったものが、プロジェクトのきっかけになる。

場合によっては、個人的な経験からプロジェクトがはじまることもある。そのようなアスリートとデザイナーの相互作用は不可欠である。大切なことは、製品開発のプロセスに積極的に関わろうとするアスリートが必要であるということ。ただし、会話を進めるには自分自身の見解、つまり視点も必要であり、ひいてはそれが人々の背中を押すことになる。

そもそも。私のランニングパックをめぐる冒険は、そうやってはじまった。2019年、ハイ・エンデュランス・キット(高性能なアルパイン・トレイルランニング用ギアのコレクション)のために、クレア・ギャラガーやルーク・ネルソンと共に行動する機会があった。それを通じてルークとは仲良くなり、数年後にルークはトレイルで自分の限界を探ることを私にすすめた。そして、私はオーバーナイトランニングに興味を持つようになり、何かビバークするためのものを作りたい、ランニングとアルパインの境界をあいまいにできそうな何かを作りたいと思うようになった。そこで、私はさまざまな実験に取りかかり、既存のランニングベストの容量を大きくしたり、もっと多くのギアを揺らさずに収納できるようにするために、形状やポケットのデザインを再考し、トレッキングポールやアイスツール用のアタッチメントを付加したり、さまざまな試行を続けた。アイデアが固まり、ラフな試作品がいくつかできた時、再びルークに声をかけた。彼はその世界の最前線にいたからだ。その後、2年間の試行錯誤を経て、2022年にスロープ・ランナー・エクスプロレーション・パックが誕生した。

しかし、研究開発にありがちな、それでおしまいというのは錯覚だ。何事も進化が必要である。

スロープ・ランナー・エクスプロレーション・パックが完成しようとしていたちょうどその頃、私は数人の友人とジョン・ミューア・トレイルへ5日間のランニングの旅へ出た。自分たちは1~2日分の食料とギアだけを携行し、仲間からのサポートやルート上の補給ボックスを頼るサポート付きの旅だった。

結局、山火事のために途中で引き返すことになったが、その旅があるアイデアに火を付けた。私は完全にサポートなしで、そのルートに必要な全てのギアを自ら担いで、もう1度挑戦したかったのだ。そして、再びアイデアの段階に戻り、これまでとは異なる全く新しいオーバーナイトランニングキットを模索しはじめた。

スロープ・ランナー・エクスプロレーション・パックは、日帰り遠征には最適だった。でも、サポートなしの数日間のランニングに私が求める形状や細部を備えていなかった。その特長は、ランニングとファストパッキングのクロスオーバーというよりか、ランニングとクライミングのクロスオーバーに近い感覚で、人が担いで走ることができつつも山で自由を感じられる限界量はどれくらいかを知る必要があった。人はサポートなしで何日間走ることができるのか。

パックに必要なものも分かっていた。2~3日分の食料と超軽量のビバークキットが十分に納まる20Lほどのものが望ましく、1日のはじまりと終わりに簡単に詰め直せるよう開口部は大きい方が良い。必須のポケットと機能だけに絞りスリムなものにしたい。中身は小さなスタッフバッグで整理するようにし、外側に折りたたみ式ポケットがあれば、すぐに手が届くし、必要に応じて収納を数リットル増やすことができる。

しかしながら、それがどのようなかたちになるのかは分からなかった。大抵の場合、徐々にかたちができていくプロセスに身を委ねている。それは、試作品を作り、試し、作り直し、また試すという繰り返しで、絵を描くことはない。まず特長と機能から出発し、私が求めるものと一致するように製品を作り、時間をかけてその過程から自然と外観が浮かび上がってくるのをひたすらに待つ。

試作品のパックを作りはじめる時は、いつもモスリン製だ。何の変哲もない平織りのコットン生地。この段階では、とにかく形状を考え、装着の仕方を調整する。可動域を妨げないように背中の上部に着用したい。続いて、高性能な素材で1つの試作品を作成する。

今回は、スロープ・ランナー・エクスプロレーション・パックの筐体を基本にして、実用的な試作品を製作した。上部の容量を少しだけ増やし、続いて機能をそぎ落とし、パックのボディ全体を1つの筒状にした。外側には折りたたみ式のポケットも作りたかった。数日間の旅の中で食料の消費量やレイヤリング調整で荷重が絶えず変化する。この方法なら、ランニング中のフィット感が変わることなく、パックの外側にギアを収納することができるのだ。

さらに洗練を重ねる。メッシュのポケットを付けるのもいいが、もっと耐久性のある織布にできないだろうか。どんな織布が必要だろうか。女性用デザインには、どんな工夫を加えるか。一般的に女性用パックは(小さな体に合わせて)小型化されるが、それでも同じ量のギアを収納する必要がある。小型化しても収納量を維持するために、外部ポケットの形状または素材を変える必要がある。さまざまな生地をレーザーカットしては切り裂き、それぞれの特性を確認することで、何度も即席の実験を行った。最終的に、三種類のパックと、五種類のアウターポケットを作った。

延々とパックづくりに取り組み続けることはできただろう。研究開発の世界には明確な期限はない。だから、私は旅をひとつの〆切とすることにした。今回の場合、スウェーデンの友人の結婚式だ。数年前からルークは、私にクングスレーデンと呼ばれるスウェーデンのアルパインルートを試してみるべきだと語っていた。整備された山小屋があり、このルートが「サポートなし」とは言いがたいルートだったが、辺境の地であることや気まぐれな天気は実験の場としては完璧だった。

7月13日、ダニと私はストックホルムのホテルに大きな荷物を残して、駅へ向かった。新作のランニングパックには、150マイルのトレイルを経てクビックヨックに至り、再びストックホルムに戻るのに必要なギアが詰め込まれていた。

これからどうなるのか分からないまま出発した。そして、私たち二人とも緊張していたことだけは記憶に残っている。それでも結局のところ、とてつもない長距離を走る時の興奮と瞑想的な感覚は普遍的なものだ。初夜の予定外のビバークにもかかわらず、トレイルのリズムに乗ると、たちまち気持ちはアガッた。なだらかな地形で山々は驚くほど走りやすいが、累積標高、冷たい雨、数kmの湖の横断が山々をさらに巨大に感じさせた。空気も、地面も、ほどなくして、私たちのソックスやウェアも、全てがびっしょりになった。

山岳ツンドラにカバノキの森が広がっており、私たちは絶えずレインジャケットを(パックから出し入れして)脱いだり、着たりしながら、レイヤリングを調節し、何が有効で何がそうでないかを心のメモに残した。起伏のある谷を順調に進み、続いて低い雲の中に入る。その下では、河川が内陸フィヨルドのようなツンドラを這うように流れる。緑とくすんだオレンジの皮膚に青灰色の静脈。本当に何もない場所だ。

トレイルを走り3日目を迎える頃には、軌道に乗っていた。レイヤリングが整い、身体が距離に追い付き、ルートを順調に経過した。毎日がシンプルな日々だった。起きて、食べて、皿を洗い、走り、ボートを漕ぎ、走り、泳ぎ、寝るの繰り返しだ。急に何もかもが流れだしたようだった。

かつては、このような感覚は数週間をかけたスルーハイクでしか見いだせないと思っていた。数日間で走りきるためには、楽しむことを捨て、景色を急いで通り過ぎるしかないと。ある意味、私は自分自身が間違っていることを証明したくてこのパックを作ったのだろう。走る自由を温存できて、しかも惨めになったり、バテたりしない最低限の装備に絞り込みたかったのだ。それによって、素早く移動しながら、たっぷりと時間をかけるという、美しく絶妙なバランスを見いだした。

私は、研究開発プロジェクトを写真のように捉えている。旅のギアやウェアを製作するとき、私はいつも、ある瞬間を捉えようとする。私の場合、このパックは数日間の山旅で、現実感が薄れ、ゾーンに入る瞬間を捉えたものだ。ランニングでも、ハイキングでもいい。それは長い間をトレイルで過ごし、重荷から解放され、自由を感じ、能率的に動き、リズムと快適さを見いだした瞬間だ。

研究開発においては、製品ではなくコンセプトを創造するため、あまり多くの結末を迎えることはない。常により良いものを作れるし、常にもう1度やり直すことができる。時には、作品を現実世界に送り出せないこともある。その意味では、クングスレーデンでの最終日は美しく、満足できるものだった。トレイルでの時間に元気をもらい、文明社会に戻りたい一心で、最後の数kmを駆け抜ける。アビスコに到着すると、街の広場で色とりどりの旗と音楽のファンファーレが鳴り響いた。何かをやり遂げた心地の良い気分だった。それに浸っている間にも、また一からはじめようと、心は次の大きなプロジェクトに向けて、ひそかに動き出していた。

編集注記:この記事は、パタゴニアの研究開発ラボであるザ・フォージの協力を得て、イノベーション・プロセスの内側を垣間見てもらおうと執筆されたものです。ザ・フォージのプロジェクトが、全て製品となってウェブサイトや店舗に並ぶわけではありません。実際、そうならないことの方が多いでしょう。ここで紹介した試作品が世に出るかは正直なところ分かりません。私たちはただ、この記事を読んだあなたにとって、数日間の冒険に挑戦するためのインスピレーションになることを願っています。それまでは、またミシンの前に戻って、いじくりまわすことにふけるとしましょう。 

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