愛すべきダート
全ての写真:ケン・エツツェル
鼻をうんと近づけると、ポンデローサパインの樹皮は、バニラのような、あるいは、木によってはバタースコッチのような香りがする。
ワシントン州は松の木が有名だ。絶え間なく水と緑が続く土地として描かれ、マウンテンバイクで言い換えるならば「完璧な森の中に、完璧なトレイルと完璧なダートがある大地」ということになる。確かにそのとおりだ。少なくとも州西部に関しては。
州の最東端に位置するスポーカンの名物は、松林でもマウンテンバイクでもない。ここはリンゴの樹と大学バスケットボールが有名だ。州の東部3分の2が砂漠であるように、この地域の年間降水量は152mmと少ない。森林が点在し丘陵には日に焼けてカリカリの泥と乾いてカサカサの草、低木の藪がパッチワーク状に混在している。地形は急峻ではなくゴツゴツとしていて、広大な地平線に拡がる農地は中西部によく似た景観だ。トレイルは埃っぽく、ローム層というより砂に近く、こぶしの大きさほどの松ぼっくりが散らばっている。
ワシントン州の中でも、この辺りは「退屈な場所」だと呼ばれているのはそのためだ。東側の人にとっては、落ち着いた色調は、空間を構成する要素を際立たせ景観の本質を見極めやすい。
石灰岩や黄色や橙色のまだら模様の地衣類は、そこが希少な花崗岩の塊であることを示し、さらにそれらは2つの滅亡的な大洪水の記憶を物語っている。一つ目は、炎と溶岩の猛り狂う波であり、その一帯に象徴する玄武岩の柱状節理を残した。次に、氷と水の壁がそれらの玄武岩に深い溝を刻み、数百マイルにわたって残骸を撒き散らした。
湿った土がワシントン州東部の日差しを一身に浴びるとマウンテンバイクを走らせるのにこれほどの適した場所はない。毎年、春の数週間、繊細でドラマティックな色彩が繁茂し、これらの骨を覆い尽くす。雪解けで小川が増水し、まだ眠りから覚めない砂漠の中で流れる生命活動はきらめくリボンのようだ。
波打つ芝草が緑のレースのように丘の斜面を覆い尽くし、バルサムルートやルピナスの黄や紫の水玉が散りばめられる。セージやモミのスパイスが、ポンデローサパインのバニラやバタースコッチにブレンドされると、春を体現する魅惑的なカクテルのようだ。
景観の慎ましさは、それぞれの個性が際立ち、緑の壁に遮られてその体験は不明瞭になったりぼやけたり薄まったりすることはない。ポンデローサパインの向こうにほかのトレイルがよく見えるから、好奇心をそそられる。たぶん、次のラップでそれらがどこに通じているか分かるだろう。あるいはその次か。
何を描くかは重要なことではない。大切なのは描くことそのものだ。