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地域に根ざしたクライミングエリアを目指して

成瀬 洋平  /  2023年5月18日  /  クライミング

2009年に公開された笠置山クライミングエリア。14年の時を経て、エリアは新しいステージを迎えつつある。エリアが抱える課題と未来へのビジョンを通して、岩場の在り方を考える。

岐阜県東部に位置する恵那市。笠置山は市街地の北部に、その名の通り笠を置いたような端正な山容で横たわっている。標高は1,128mと決して高くはないものの、深田百名山の一つ恵那山と対をなすように聳える独立峰で、町のどこからでも望むことができる。この地域には「お笠置晴れて恵那曇り」という諺がある。恵那山が曇っていても笠置山が晴れていれば翌日は晴れるという意味だ。古より笠置山がこの地域の人々の生活において欠かせない存在だったことが窺い知れる。

山麓にはおよそ8500万年前の火山活動によって形成された濃飛流紋岩の巨石が広範囲にわたって点在している。これらの岩に注目し、クライミングエリアとして公開されたのは2009年のことである。傾斜が強く多彩な形状の岩はジムナスティックなボルダリングにうってつけの岩質だった。当初は200ほどだった課題数も現在は1500課題以上にのぼり、日本屈指のボルダリングエリアとなった。
「エモーション(五段)」をはじめとするプロクライマー小山田大氏による高難度課題はトップクライマーにとって大きな目標とされ、小ぶりな岩には子ども向けの課題が設定されるなど、レベルや老若男女を問わずボルダリングを楽しめる。大きな岩にはリードルートが築かれ、その数は100本ほど。スラブ、フェイス、強傾斜からクラックまで多岐に渡り、グレードも5.6〜5.14aと幅広い。秋から春にかけてのシーズン中は日本各地からクライマーが訪れている。

笠置山クライミングエリアの特徴は、クライミングをしない地元住民がクライミング環境の維持に積極的にコミットしていることである。地元の人々によって自発的に「笠置山クライミング協会」が組織され、クライマーのために駐車場やトイレ、キャンプサイトを整備。心置きなくクライミングが楽しめる環境づくりをしてくれているのである。このような岩場は非常に珍しく、一つのモデルケースとして他所のクライミングエリアの参考にもなっている。
クライミングエリアが広がるのは笠置山の南斜面。そこは笠置町財産区や山麓の人々の私有地が複雑に入り組んでおり、地元の人々が先祖代々大切に活用してきた土地である。そのような土地を解放するとともにエリアの維持費を賄うため、クライマーは1日1人300円の入山協力金を支払うことがルールとなっている。協力金はエリア内の地代、駐車場やキャンプサイトの修繕費、トイレの清掃費などに利用されている。

私は笠置山から車で30分ほどの村で生まれ育った。クライミングエリアが公開された時は駆け出しのフリーライター、イラストレーターとして東京で活動していた。拠点を地元に移したいとUターンしたのは、公開から一年後のことだった。故郷にこれほどの岩場ができるとは思いもよらないことだった。けれど、その時の私は絵で生活を成り立たせるのに精一杯で、まともにクライミングなどしていなかった。そんな生活に変化が起きたのはさらに一年が経った頃。地元での生活に慣れてくると、これほど岩場が近くにあるのに登らずにいるなんて、一生クライミングを楽しめないじゃないか、と思うようになった。岩場通いを始めると再びクライミングに夢中になった。知人に誘われて開拓も行うようになり、ローカルクライマー団体の代表を務めることになった。クライマーは絵のモチーフにもなった。そして笠置山を拠点にもっと面白いことができないかと、6年前にクライミングインストラクターの資格を取得。現在は講習会や体験会を行っている。気がつくとクライミングを軸に生活を組み立てるようになっていた。ここには一生かかっても登り尽くせない課題がある。そして何より、手付かずの岩を探して森の中を彷徨うことは、何事にも変え難い驚きと喜びを与えてくれる。静かな森の中で岩を掃除し、一人で岩と向き合う時間はなんて豊かなひとときだろう。笠置山は、プライベートでも仕事でも、私の生活になくてはならない、生き方そのものに大きく関わる大切な場所となっていた。

公開から14年を迎え、笠置山を取り巻く環境も変化している。「笠置山クライミング協会」に関わるほとんどの方が70歳を超え、ローカルクライマーの多くがさまざまな理由でクライミングから離れていった。地元に通常営業しているクライミングジムがないため、クライミングを始め、クライマーが集い、コミュニティを形成し、文化を育むための拠点がない。エリアの維持にコミットする新たな人材が育たないことは、笠置山クライミングエリアが抱える大きな課題である。
もう一つの課題は入山協力金の未払いだ。笠置山の入山システムは地元住民がクライマーを信頼してくれることで成り立っている。本来なら入山料として地主が何に使おうとクライマーがとやかく言うことではないはずなのだが、ここではエリア整備に充てられている。入山料ではなく協力金としているのもそのためで、エリアの維持にクライマー一人ひとりが直接関わることのできるシステムだとも言える。それにも関わらず入山受付を素通りする車が後を絶たない。そのような行為に付随するかのように、5月の連休が終わった岩場にはチューハイやエナジードリンクの空き缶が置き捨てられ、駐車場にはタバコの吸い殻が散らばっていた。

「良い水があるところに上手い酒ができるのと同様に、優れたルートのあるところに優れたクライマーが育つ」
これは偉大な先達が残した言葉である。人間は自然に働きかけなければ生きていけない。フリークライミングとは、自然と人間との折り合いの付け方を模索する思想であり、哲学なのだと思う。前進する手段として人工物を用いてはいけないと言うのが最大の特徴で、それは岩とクライマーとの間にできるだけフェアな関係を築くために、あえて人間に課したルールである。安全を確保する道具も可能な限り用いない。生身の身体だけで岩と対峙する。その課題に見合った技術、体力、そして精神力がなければ完登することはできず、そこに岩とクライマーとの折り合いが生まれる。クライマーは心身を鍛え、再び岩と対峙する。

ボルダリングがブームとなり、より多くの人が楽しめるように岩場を整備、敷居を低くすることでさまざまな人間が笠置山を訪れるようになった。けれども、果たして笠置山は優れたクライマーを育てられる岩場になっているだろうか。そして自分は少しでも優れたクライマーに近づいていけているのだろうか。この場所でどのようにフリークライミングという思想を育み、文化として繋いでいくことができるのだろうか。

クライミングは基本的に危険を伴う。岩と自分との関係を客観的に見つめ、その折り合い点をできるだけ岩に近づけ、登る。そこでの学びは普遍性を持ち、より自然に歩み寄った生活を営むための大きなヒントになってくれるだろう。
また、私はクラミングの芸術的側面にも注目したい。岩の形状を読み取りムーブを組み立てていくことは、モチーフから形や色を読み解いて絵を描くことと根本的には同じ行為なのではないかと思う。クライミングは一つの身体芸術と言えるかもしれない。どちらも折り合い点を対象に近づけていくことで、より深く対象を知ることができる。
岩場は楽しみの場であると同時に学びの場であり、創造の場でもある。そう捉え直したとき、クライミングエリアが持つ可能性が、湧き立つ雲のようにむくむくと立ち上ってこないだろうか。それは、子どもたちの発育にとっても非常に魅力的な場所になるのではないかと思う。

私たちの大切な岩場をいかにして守っていくのか。クライミングエリアは、クライマー、地元の人々、社会環境、自然環境などさまざまな事柄が絡み合った上に成り立っている。それを維持していけるかどうかは、ローカルクライマーのみならず、訪れるクライマー一人ひとりの行動に委ねられている。そして我々ローカルにとって地元の岩場を失うことは、クライミングとともにある日常生活を失うことであり、生涯にわたる楽しみを失うことである。

岩場の在り方は多様化し、ローカルクライミングコミュニティの在り方も過渡期を迎えている。けれども、岩場は自然と人間との関係性を考え、楽しみ、実践する場所であってほしい。家のすぐ近くにそのような場所があることは、なんて豊かな暮らしなのだろうと思う。クライミングが生活に溶け込み、喜びや生きがいとなり、クライミングを通して自然との折り合いの付け方を考え、学び、創造していく。きっとそれが、フリークライミングが文化として地域に根付くということなのだろう。そうなった時、笠置山クライミングエリアは一つの完成形を迎えるのだと思う

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