7度目のチャンス
全ての写真:アンドリュー・バー
どうにかレストポイントまでたどりついて両足をクラックにねじ込み、両足にぶら下がる格好で頭を下にし、パンプしきった両腕を休めた。正直、ここまで落ちずに来られるとは思っていなかった。登り出してから息もつかせない流れの中で、リスクあるムーブを繰り出してきた。ここでいうリスクとは、フォールしてそのトライが失敗するリスクのことだ。フォールし、また登りなおさなければいけない恐怖。この2週間の雨のせいで、取りつきまでの道のりにすら、うんざりさせられていた。
逆さまの体勢でレストしながら、上部のムーブのことを考えた。想像以上に消耗している。ここまで紙一重の連続だった。サムカム、レイバック、シンハンド、悪いホールドを危ういムーブでつないできた。2回、3回、そして4回、もうダメだ、と思いつつぎりぎりのところで幸運に助けられ、完登へのチャンスがつながってきた。同時に、僕はその幸運にあずかるに値する、とも感じていた。
次のセクションは、このルートの3つ目の核心で、フェイスのホールドとジャミングをうまく使うことがカギになっている。ジャミングに痛めつけられた指でフェースの小さなエッジをとらえるのは至難の業だ。頭を切り替える必要があるが、ここまでの50mで僕は消耗しきっていた。
悪いことに、ノルウェーの湿った潮風の影響で岩のコンディションが悪い。核心パートの最初のホールドは繊細なホールディングとフリクションが必要なスローパーだ。フリクションがあれば2つの顕著な結晶が指に食い込んでくれるが、フリクションがないとその結晶の存在は感じられず、石鹸を塗ったようなツルツルの手に負えないホールドになってしまう。
体幹や足に大きな負荷のかかるこのレストポイントに、長くとどまり過ぎていることはわかっていたが、前腕がパンプしきっていたのだ。前腕は徐々に回復してきたが、今度はクラックの中で全体重を支えている足が麻痺してきた。フットホールドをとらえるときに必要なつま先の感覚がなくなってしまう。
右上に向かって体をおこし、両足に血液を送り込んでムーブを起こした。くだんのスローパーをとらえたが、指に食い込む結晶は感じられなかった。落ちる、と思いつつ必死で次のホールドに手を出すと、奇跡的に指は止まっていて、僕の体はまだ壁の中に留まっていた。幸運に助けられて完登へのチャンスが繋がったのはこれで5回目だ。
さらに3つのムーブをつなぎ、シンハンドのパートにかかる。そのコーナークラックはやや浅く、ジャムを決めにくい形状だった。ヨレた状態では簡単に吐きだされてしまう。フレッシュな状態であればそこまでの強度ではないが、もちろん今はそうではなく、だから落とされる可能性が十二分にあるとわかっていた。
できるだけ腰を入れ、壁に体を沿わせてムーブを起こしていく。腰が落ちて剥がされそうだ。いずれにしろ、一連のムーブの流れでそのクラックを捉える以外選択肢はなく、ここで一秒でも動きを止めてしまえば、あっさり落とされてされてしまうだろう。今手を出せば、あるいは奇跡の一手を止められるかもしれない。
ほんの一瞬、止まったような気がした。僕のジャミングはコーナークラックに収まったように思えた。しかし、腰が落ちていたために、体は壁から引き剥がされ始めていた。6番目の奇跡は起きなかった。重力に支配され、僕の体は宙に吸い込まれた。
消耗を避けるために最低限のプロテクションでロープをのばしていたので、かなりのロングフォールになった。先ほど越えた3つ目の核心も、レストポイントも、30分前に通過した落ちていてもおかしくなかったパートも飛び越え、僕の体はようやく止まった。
レッドポイントトライでは常に限界まで振り絞るが、フォールした時はいつも「もっと頑張れたのではないか」と思ってしまう。パンプに支配され、ぐったりとしぼんだ風船のようにロープの端にぶら下がりながら、僕は苛立たしい感覚にとらわれていた。
けれども、フォールした直後のこうした瞬間こそが肝心だ。「もっと頑張れたのではないか」という思いが、もう一度取りつこう、諦めてはならないと背中を押す。すべてを振り絞ったと思っても、タンクの中には常にエネルギーの最後の一滴が残っている。挑戦しなければ、次のチャンスはないのだ。