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古着のポテンシャルを掘り起こせ

岩井 光子  /  2020年9月4日  /  読み終えるまで8分  /  Worn Wear

グラデーション、ストライプ、稲妻型、ツートンカラーなど様々なバリエーションも。晩年のマティスが即興的に作った切り絵のように、自由な形と色のハーモニーが気分を明るくしてくれる。写真:丸山 勝已

破れや色あせなどのダメージや経年変化で着られなくなった服をアップサイクルする活動を3年前に始めた丸山 勝已さん。防水機能の落ちたレインウェア数枚を組み合わせて作ったカラフルなサコッシュが社内で評判になり、今ではInstagramを通じて発信される作品が、海外のパタゴニアファンからも注目されています。持ち前のデザインセンスで古着の可能性を意欲的に開拓している丸山さんに話を聞きました。

ボロボロの服こそ想像の源泉

パタゴニア日本支社の休憩室の一画に「リサイクルボックス」があります。隣の「リユースコーナー」は、子ども服などの掘り出しものを求めて休憩中のスタッフが中をのぞきにやってくるのですが、リサイクルボックスの方は、主に色あせや生地の傷みがひどく、そのまま着続けることは難しい服が入っているので、中をのぞきに来るスタッフはあまりいません。そのリサイクルボックスの方を積極的にチェックしているスタッフの一人が丸山勝已さんです。ボロボロになった服を見ながら、「こう直せば、まだ着られるかな…」などとイマジネーションを膨らませることは楽しみの一つ。形をじっと眺めているうちに、人をあっと驚かせるようなアイデアがひらめくこともあります。

古着のポテンシャルを掘り起こせ

パタゴニア日本支社の休憩室の一角にあるリサイクルコーナー。向かって左が「リサイクルボックス」、右が「リユースコーナー」。リサイクルボックスに入った服はほとんどが倉庫に運ばれ、リサイクルに回ります。「この箱を漁っているのは、僕くらいかなあ(笑)」と丸山さん。3年ほど前からウェアを補修したり、アップサイクルする活動を一人で始めました。

例えば、下の写真は女性用タンクトップ。黄ばみも目立ち、服として着続けることは難しいため、明るいピンクの糸で下部を縫い合わせて袋状にし、肩ひもの部分を持ち手に見立ててマイバッグにしました。同じピンクの糸で施されたダイヤなどのワンポイントは、ミシンで重ね縫いし、刺しゅうのように見せています。
「仲間からは『丸さん、刺しゅうもできるの?』って。実は僕、全然刺しゅうなんかできなくて、ミシンでも直線縫いとジグザグ縫いとかがり縫いしかできないから、同じところを2回縫って線を太くしているだけ(笑)」

古着のポテンシャルを掘り起こせ

左:女性用のタンクトップを縫い合わせて袋状にしたマイバッグ。右:マイバッグにあるダイヤのワンポイント。少しのひらめきで刺繍のような仕上がりに。写真:丸山勝已

こちらは「ダーニング」と呼ばれるイギリス伝統のお直しを施したコーデュロイパンツです。ダーニングマッシュルームと呼ばれるきのこ型の木具に直す部分をかぶせて、手縫いのステッチで四角や丸型にかがっていきます。一度、ニットデザイナーの野口光さんが講師を務めるリペアメイク教室でダーニングを習ったことがある丸山さんは、穴や破れをダーニングのステッチで直すことも。隠したかったダメージを愛嬌のあるアクセントに転換できるのがダーニングの魅力です。

古着のポテンシャルを掘り起こせ

左:擦れやすい股や穴の空いた後ろポケットにダーニングを施すとそこがアクセントに。右:黒のシンプルなセーターに映えるダーニング。「うちの奥さんにいいなと思って作りました。たまに着てくれていますが、気に入ってくれているのかな? 周りからは『いいね!』と言われるみたいですが」
写真:丸山 勝已

防水機能を失ったウェアを集めて

インテリア会社のデザイン関連職や家業の印刷会社を経て、5年ほど前にパタゴニアに転職した丸山さんは、デザインには親しみがありましたが、裁縫は全くの初心者。特にミシンは家庭科の授業以来、触った記憶がありませんでした。使い方もすっかり忘れてしまっていたので、糸の通し方など基本から学び直し、試行錯誤しながら製作を始めたそうです。

丸山さんが最初に試作したのが、着古した防水性ジャケット数枚を組み合わせて作ったサコッシュ。防水機能は長く着ていると失われてしまうので、防水の役割を果たさなくなったレインウェアを社内で呼びかけて譲ってもらい、携帯や財布が入るようなミニバッグを作ろうと考えたのです。

「ヨレヨレになるとさすがに使えないので、使える部分の生地を切って組み合わせます。だから仕上がりはパッチワーク風になる。最初は裏地をつけませんでしたが、強度が足りなかったので、裏地をつけました。同僚に実際に使ってもらって意見をもらいつつ、改良していきました」

古着のポテンシャルを掘り起こせ

丸山さんの作業部屋は自宅の和室。丸山さんが制作をしていると愛犬のハンナちゃんは自然と膝の上にやってくる。写真:丸山 勝已

Instagram開設で評判は海外へも

丸山さんの作品は社内だけでなく、Instagram(@ca222me)を通して、国内外のアップサイクルが好きな人達からも注目を集めています。

「同じ部署の女性スタッフから『丸さん、これ絶対Instagramで発信した方が良いよ!』と薦められて始めました。自分はSNS自体、全くやったことがなかったので、インストールからアカウント開設、投稿の仕方まで全部その彼女に教えてもらって始めました。正直こんなに反響があるとは思ってなくて、とても驚いています」
フォロワーの7割近くは海外からなので、最近は日本語ができない人たちも読めるように、コメントは英語で発信するようになりました。

「始めにジャケットを快く譲ってくれたスタッフ、Instagramの開設もそうですが、助けてくれた仲間には本当に感謝しています。僕だけではできないことも多かった」

古着のポテンシャルを掘り起こせ

年齢に伴う体型変化で、ウエストやヒップ周りをリサイズした一連のズボンは、特に海外フォロワーからの反響が大きかった。写真:丸山 勝已

頭にずっと残ったイヴォンの言葉

服のアップサイクルは個人的な創作活動として、勤務時間外に自宅で始めたこと。
今の活動を始める直接のきっかけとなったのは、7年前にたまたま手にした雑誌『coyote』で創業者のイヴォン・シュイナードが40周年を迎えたパタゴニアのこれからについて答えたインタビュー記事でした。

“穴があいたら、新しいジーンズを買うのではなく、つぎはぎしてはき続けるようなファッションを流行させたい”
※「coyote」(「特集・今こそ、パタゴニア」p34 2013年冬 Switch Publishing)

「『赤いひざ当てをつけたジーンズをはくことがかっこいい。そんな文化を作りたい』。僕は『これだ!』と思って、とても共感したんです。イヴォンが“赤いひざ当て”と言っていたこともあって、始めは赤い糸だけ使って直すことも考えていました。実際にやってみるとそのルールはうまくいかなかったので、代わりになるべく色がきれいな布を足して直すことを心がけています」

小中学生の頃から、買った後に大切に育てていくジーンズの世界に魅せられ、服を直しながら着続けることには関心があったという丸山さん。また、幼少期から娘は肌が弱く、それを改善すべく、思い立って都内から湘南へ移り住み、畑を始め、食生活の根本から見直し始めたのもその頃だったと言います。

「イヴォンが責任ある企業の在り方として、今後力を入れたいこと二つに、服を大事にして一生着続けるということと食をあげていて、それはその頃僕が関心を寄せていたことに見事にフィットしたんですよね。だから、記事のことはずっと頭にあって離れなかった」

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ボロボロだったクライミングパンツにアフリカンプリントで当て布で補修する。Instagramにアップすると、当の持ち主だったスタッフから「もう一度履きたい」と連絡があり、再び履き続けることに。「これには僕も驚きました。一番印象に残っているエピソード」写真:丸山 勝已

元の形を尊重して再生する理由

イヴォンの考えに共感した丸山さんは、ダメージを“隠す”直しでなく、直した部分をあえて強調し、目立たせる方法をとっています。パタゴニアのロゴも、始めについていた場所から動かさないことが、丸山さんのこだわり。アップサイクルという行為を広めるために、なるべく服の原形を残しつつ直すよう工夫を凝らしているのです。

自分の作りたいものに服を利用するのではなく、服の元の形を尊重して再生方法を考えていくので、丸山さんの作品には突然変異のデザインが生まれる面白さがあります。ファッションデザイナーの山本寛斎さんが「ファッションは祝祭」だと表現していましたが、廃棄するはずだったものを意識的にカラフルに、色鮮やかによみがえらせることで、見る側は驚き、楽しくなり、気分が高揚します。明るく、華やかな色彩をまとうことで、服も生まれ変わりを祝福されているかのようです。

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ベビーTシャツの形はそのまま、裏に接着芯を貼って補強して作ったトートバッグ。写真:丸山 勝已

丸山さんが活動を通して一番伝えたいことは、「ものを大切にしてほしい」ということ。服を直す、という行為にも気負いを感じず、だれもがそのプロセスを楽しんでほしいと願っています。

「自分も独学。そもそも技術がないから、どこを直したかわからないようなプロの直しを目指せと言われたら、僕だって躊躇(ちゅうちょ)してしまうかもしれない。でも、楽しく直す。その行為自体が楽しい! と感じられれば、なんとかなっちゃうと思いますよ(笑)」

自分で手を動かすことを薦める理由は、Instagramの完成作からは見えにくい部分、つまり、元は廃棄寸前の古着であったということを深く考えてほしいから。

「服に対する愛情が伝わるように一番気をつけています。特に若い世代に、古着に魂を吹き込むような、このプロセスの面白さが伝わるといいな」

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