木質バイオマス発電はカーボンニュートラルではない
木質バイオマス発電は誤った気候対策
日本の夏は熱帯のような高温が続き、豪雨や台風などの災害も年々激甚化しています。こうした気候変動の影響は、私たちの暮らしや安全を脅かす深刻な問題です。そのため、再生可能エネルギーの導入をはじめとする気候変動対策は待ったなしの課題となっています。
日本政府は2012年に「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)」を導入しました。FITは、消費者の電気代に上乗せされる「賦課金」によって、太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱といった再生可能エネルギーの拡大を促す仕組みです。この制度により太陽光発電が急速に普及し、次いで生物資源を燃料とするバイオマス発電が拡大しました。
バイオマス発電は、ゴミや家畜の排せつ物、間伐材など使い道のない廃棄物を燃料にする「環境にやさしい電気」というイメージを持たれがちです。しかし、FIT制度で支援されているバイオマス発電の実態は異なります。燃料のうち国内の建設廃材はわずか2%、国産の間伐材や林地残材など「未利用材」も10%に過ぎません。約70%は海外から輸入された木質バイオマスが占めています。
輸入されるバイオマス燃料の中心は、東南アジアで生産されるアブラヤシの種の殻「パーム核殻(PKS)」と、ベトナム・カナダ・米国などで生産される木質ペレットです。FIT制度の開始以降、輸入量は増え続け、2024年には木質ペレット638万トン、PKS608万トン、合計1,246万トンに達しました。これは10トントラックに積んで並べると約1万2,460キロメートル──札幌から那覇までを3往復する距離に相当します。
この木質ペレットの多くは海外で森林を伐採した丸太から生産されており、現地の森林や生態系を破壊し、工場周辺の住民の健康被害を引き起こすなど、深刻な環境・社会問題を伴っています。樹木は伐採後に再び成長することができますが、森林全体は本当に元通りになるのでしょうか。そして、燃やしてエネルギーを得るという行為そのものに問題はないのでしょうか。
2021年、世界中の500人を超える著名な科学者や経済学者が、日本を含む主要なバイオマス消費国・生産国の首脳宛てに書簡を送りました。その中で、木材の燃焼は化石燃料よりも多くのCO₂を排出し、その結果、大気中のCO₂濃度が数十年から数百年にわたり増加することを指摘。木質バイオマス発電は「カーボンニュートラル」ではないと警鐘を鳴らしています。
さらに、今年ブラジル・ベレンで開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP30)は「ネイチャーCOP」と呼ばれ、森林保全が大きな論点となりました。一方で、ブラジルや日本政府が主導する「ベレン4X誓約」──2035年までにバイオ燃料など持続可能燃料の生産を4倍に拡大する取り組み──には、世界の環境NGOから懸念の声が上がっています。木質バイオマス発電についても、多くのNGOが政策の見直しを求め、活発な情報発信とアクションを展開しました。
原生林を燃やす私たちの電気──カナダで見た木質ペレットの現実
2024年9月、私たちはカナダのブリティッシュコロンビア(BC)州を訪れました。そこには、壮大な自然と野生生物が息づく森が広がっています。しかしその一方で、広大な森林が一度に伐採された跡地や、ペレット工場に積み上げられた大量の丸太を目の当たりにしました。
現在、BC州で伐採されている森林の多くは原生林であり、地元のNGOや住民から強い反対の声が上がっています。日本がカナダから輸入する木質ペレットの原料の約8割は製材所で発生するおがくずなどですが、残りの2割は森林から直接伐り出された丸太だと言われています。そして、製材の残りであっても、その元は原生林を伐採した木であることに変わりはありません。
原生林の土壌は、苔や落葉、倒木が何百年もかけて積み重なり、水分を含んだ柔らかな層を形成しています。そこには多様なキノコが生え、木々には地衣類が垂れ下がっています。絶滅危惧種であるマウンテンカリブー(森林トナカイ)は、この地衣類を主な食料とし、古い森に深く依存しています。こうした森がいま、ペレットに姿を変え、私たちの電気を生み出す燃料となっているのです。
苔むした内陸温帯雨林。 写真:Kenji Ito
マウンテンカリブー。 写真:Howard Sandler from shutterstock
BC州では伐採後の植林が義務付けられています。しかしそれは生物多様性に富んだ天然林が、経済価値の高いマツなどほぼ単一種の植林地に置き換えられるということです。こうした植林地には、地衣類や苔など古い森の中で生きてきた植物種やほとんどの野生動物が生息できず、生態系そのものが大きく変化してしまいます。
昨年、世界的に著名な森林生態学者スザンヌ・シマード氏が来日し、森の木々が最も大きな「マザーツリー」を中心に助け合って生きていること、そしてBC州の原生林が危機に瀕している現状について語りました。北方の森林では、炭素の半分以上が地上の樹木ではなく地下の土壌に蓄えられています。原生林の土壌は数千年かけて炭素を蓄積してきましたが、大面積の皆伐によって乾燥と分解が進み、大量の炭素が大気中に放出されます。シマード博士によると、皆伐で失われた炭素は100年経っても半分しか回復しません。彼女はこう訴えました。「カナダの森林産業は持続可能ではありません。ペレットもほぼ100%原生林由来だという事実を知ってください。私たちが本当に取り組むべきなのは、木を伐り過ぎるのをやめ、森林を再び優れた炭素吸収源に戻すことです。」
市民活動によって伐採を免れた古代林のウェスタンレッドシダー。 写真:Kenji Ito
BC州の原生林皆伐地。 写真:Conservation North
土壌からの温室効果ガス排出は、多くの国や企業の炭素会計で十分に評価されておらず、「見えない排出」として温暖化をさらに加速させています。こうした現実を伝えるため、2025年の初春に「原生林を燃やす私たちの電気」というテーマで、パタゴニア直営店24店舗でBC州視察の記録と写真を展示しました。さらに、5店舗ではトークイベントを開催し、木質バイオマス発電の背景にある問題を多くの方々に共有しました。その結果、政策転換を求める署名を2万筆集め、提出することができました。
伐採と「エネルギー植林」によって失われる、インドネシアの「進化のるつぼ」
私たちが2025年8月に訪れたインドネシア・スラウェシ島北部ゴロンタロ州では、2022年以降、ペレット生産を目的とした森林伐採が急増しています。これらの地域は「バイオマス用産業植林」のために事業許可が与えられ、熱帯林を伐採した後、成長の早い外来種を植え、短いサイクルで伐採を繰り返す「エネルギー植林」へと転換されているのです。
スラウェシ島は世界有数の生物多様性ホットスポットです。哺乳類の約98%、爬虫類の80%、鳥類の約30%が固有種であり、霊長類だけで17種が確認されています。近年も新種のメガネザルが発見されるなど、今も進化が続く「進化のるつぼ」と呼ばれる場所です。
この熱帯林は、地域住民にとって生活の基盤でもあります。私たちが訪れた複数の村では近年、洪水被害が深刻化していました。村の人々は「洪水を防ぎ、清潔な水を確保するためにも、上流の森を守ることが不可欠だ」と語っていました。
森はまた、村人にとって貴重な収入源です。サトウヤシの樹液、ラタン(籐)、ハチミツ、野生鳥獣の肉、薬草などの林産物は、月に数万円の収入をもたらしています。しかし、森林が伐採され、外来種の植林が広がれば、こうした恵みは失われ、村人が自由に採取することもできなくなるでしょう。
ゴロンタロ州では、すでに伐採が進んでいるバイオマス用産業植林地の面積は合計10万ヘクタール以上──東京都の約半分に相当します。今後さらに30万ヘクタールにまで拡大する可能性があります。同州には現在約60万ヘクタールの天然林が残っていますが、その半分近くが日本の再エネ燃料生産のために失われようとしているのです。
ゴロンタロ州は東西に細長く、半島の森林は野生生物の移動に不可欠な「緑の回廊」として機能しています。天然林の伐採とエネルギー植林の拡大は、この島にしか存在しない貴重な生物の生息地を分断し、絶滅の危機をさらに加速させるでしょう。
こうした熱帯林のバイオマス用植林への転換は、スラウェシ島だけでなくインドネシア全体で進行しています。地球上で最後に残された貴重な熱帯林が、今まさに消滅の危機にさらされているのです。
ゴロンタロ州南西部の山地に広がる熱帯林。 写真:SFOC
セレベスツカツクリ。 写真:Ariefrahman
ローランドノア。 写真:The Land
クマクスクス。 写真:ꦥꦤ꧀ꦗꦶꦒꦸꦱ꧀ꦠꦶꦄꦏ꧀ꦧꦂ
スラウェシバビルサ。 写真:Masteraah
ゴロンタロマカク。 写真:ヘンリック・イシハラ
森と未来を守るために、いま私たちができること──誤った気候対策の転換を求めて
森林は、酸素の供給、水源の維持、土壌や気候の安定、生態系の基盤として欠かせない存在です。近年の科学的知見では、伐採して燃料にするよりも、そのまま保全する方が炭素の吸収・貯蔵に優れており、気候変動の緩和により効果的であることが明らかになっています。森林の保全は、まさに「自然に根ざした解決策」であり、持続可能な未来への鍵です。
国際的な潮目も変わりつつあります。EUや韓国は脱化石燃料を目的に木質バイオマス発電を推進してきましたが、EUでは燃料の持続可能性に厳しい条件が設けられ、韓国も2025年に新規発電所への補助金を停止し、既存施設への補助金も段階的に削減する方針を示しました。
日本でも、2025年初春、私たちが国内外の環境団体と連携して署名キャンペーンを行っていた最中に、輸入燃料を使う新規大型バイオマス発電所は今後FIT認定しないという政策転換が発表されました。しかし、すでに稼働中、あるいは建設中の大型発電所は、今後15〜20年にわたり運転を続けます。
私たちは、消費者が支払う再エネ賦課金によって、海外の森林──特にインドネシアの熱帯林──の伐採が急速に進んでいる現実に強い危機感を抱いています。日々使う電気の裏側で、遠く離れた原生林や熱帯林が失われ、森で暮らす生きものたちが静かに姿を消しています。その森に暮らす人々の生活も、少しずつ奪われています。炭素を蓄え、酸素を生み出していた木々が、いま燃料として燃やされているのです。
この状況を変えられるのは、日本の市民、電力消費者の声です。残された貴重な森林を守るため、私たちは一緒に活動する環境団体と連携し、署名活動を始めました。気候危機から私たち自身の未来を守るためにご協力ください。そして、この声を広げてください。一人ひとりの声が、誤った気候変動対策を止める力になります。