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風土と職人技に磨かれた、循環する建築

倉石 綾子  /  2021年12月8日  /  ワークウェア

自然素材だけを用い、傷んだ箇所は修繕し、耐用年数の過ぎた材は自然に還す。循環する建築には、これからの時代のものづくりのヒントが詰まっている。

全ての写真:五十嵐 一晴

神奈川県の大井町にある三嶋神社。およそ800年前、源頼朝が源氏再興を祝って創建したという由緒ある神社では、稲荷社の覆い殿を新たにしつらえているところだった。120年前に建てられた稲荷社はこけら葺き(薄い木の板を幾重にも重ねる、日本独自の屋根工法)の屋根が痛み、基礎である石場建て(土の上に据えた石に柱を建てる構造)も含めて全体的に老朽化している。この石場建てを新たに組み直し、昔ながらの工法による覆い殿を手がけるのが「杢巧舎(もっこうしゃ)」である。

「いくつかの工務店をあたりましたが、いま土台を直すとなるとコンクリートで基礎を作るようになると言われました。その場合、建物の寿命はせいぜい40年、とも。私たちとしてはこの稲荷社本来の石場建てを活かして修繕したかった。この形を残せる工務店を探してたどり着いたのが、『杢巧舎』でした」(三嶋神社・宮司)

神奈川県湯河原に拠点を構える「杢巧舎」は、木と自然素材の可能性を追求する工務店だ。伝統工法を用いての一般住宅の新築や古民家の改修に取り組んでいる。「杢巧舎」を率いる親方、木村真一郎さんがこの建て方にこだわるのは、「一般的な工法よりも断然、耐久性が高く、高温多湿の日本の風土・環境に合っている」から。かつ、壊すとなっても建材を再利用できるという。

伝統工法。それは日本の風土、気候によって磨かれた、日本ならではの建築方法だ。古くから社寺や数寄屋(茶室の意匠を取り入れた、茶の湯のための建物)、茶室などに用いられてきたが、環境への負荷が少なく、材の再利用が可能な点からも、自然と共生する循環型の建築方法として世界から注目を集めている。伝統工法に明確な定義はないが、木、土、竹、石、紙など自然の素材を利用する、それぞれの材の特性を活かす、木組み・貫・石場建て・土壁といった、材の軋みを活かす構造を取り入れるといった特長がある。石場建ては建物の基礎となる土台や柱を礎石の上にそのまま乗せる。土壁は竹で編んだ格子を下地とし、建物の組み上げは、日本古来の継手(材木の長さを確保するため、材を継ぎ足す手法)・仕口(土台と柱、梁と桁など、角度をつけて材を接合するための方法)加工を施した無垢材を組み合わせて行われる。コンクリートの基礎も、接合部の金物も、プレカット加工材も合板も、現代の建築現場でおなじみの部材は一切、使われない。

木村さんは、地元の寺で花車(花を飾った車)を作っていたことをきっかけに大工の道に。この寺ではお抱えの大工と作業場を擁しており、そこの親方に弟子入りして社寺建築や伝統工法の基礎を身につけた。その間にもいろいろな工務店に出入りし、現在の建築基準法に位置づけられる工法も学んだ。いろいろな建て方を会得したなかで選択したのが、現在、「杢巧舎」が取り入れている手法だ。

「環境負荷が低いとか自然と共生するとか、そういう視点でこの建て方を選んだわけじゃないんです。要は、雨や湿気、地震に強い工法で、100年以上住み続けられる家ができるから。新建材の寿命はせいぜい20年、30年といわれているけれど、うちが使う、天日で乾燥させた無垢の木の寿命は400年とも言われています。せっかく建てるなら100年以上は住み続けてもらえるものを造りたい。傷んだ所があればその部材だけ修理ができるし、寿命を迎えた建材は土に還すことができますから」

多くの解体された住宅は産業廃棄物として処分される。建設業から排出される産業廃棄物の量は全体の約20%を締め、年間1億トンにものぼるという。大量の住宅を作っては20、30年で壊し、ごみの山を築き上げている。一方で、自然素材を使った住宅であれば古材を再利用できる。たとえば1970年代ごろまでは木造住宅の解体を専門とする業者がいた。一枚一枚、手壊しではがした材は、古材を専門に扱う業者が引き取って販売し、材の多くが再利用されていたのである。
「自然素材の家は傷んだところだけ修繕でき、住み続けるほどに風合いが出るから、劣化するのではなく経年変化するんです。とても日本らしいものづくりですよね。木造の家の建て方でいえば世界でいちばんスマートな手法でしょう」

資源を循環させるというあり方から再び注目を集めるようになった伝統工法。けれど、「杢巧舎」ではことさらにそれをアピールすることはない。“環境に優しい”とも謳わない。

「確かに社寺が造られるようになった時代から受け継がれている工法ではありますが、僕たちとしては昔からやっていることを当たり前に続けているだけ。伝統にこだわって懐古主義に陥りたくない。だから根っこの部分を大切にしつつ、現代の社会や暮らし方に合わせてアップデートすべき点はどんどん変えていっていいと思っています」

それよりも木村さんの頭の中にあるのは、家造りをよりワクワクしたものにする楽しいアイデアだ。たとえば来年から始める新たな取り組みは、「杢巧舎」の家造りをさらにユニークなものにしてくれるはずだ。

「長年温めてきた計画なのですが、念願の製材業をスタートします。これまでは浜松の製材業者から自然乾燥の材を買ってきましたが、来年からは山北町や湯河原の山主さんたちと手を組み、製材までを自分たちで行えることになりました。お客さんと一緒に山に入って家造りに使う材を選び、木を伐採してもらい、3年かけて天日干しして製材までを行う予定です。『杢巧舎』では自分たちで設計や材選びを行っていますが、それより前のプロセスから家造りに携わることは僕たちの長年の夢でした」

地域の木を利用することは山を守ることにもなるし、自分たちで製材すれば、半端な材だって余すことなく利用できる。「お客さんにとっても、他では味わえない贅沢な体験になるはず」と木村さん。彼らにとって、住み手が喜ぶことがいちばんの励みになるのだ。

伝統を受け継ぐ精神と進取の気性を併せ持つ木村さんのもとには、高い志を持った若い大工が集まってくる。その一人が、木組みの家に憧れたという高橋諒子さんだ。子どものころに見た、リフォームをテーマにしたテレビ番組で大工の仕事に憧れてこの世界を目指し、大学では社寺建築の歴史を学んだ。社寺よりも木組みの一般住宅を作りたいという思いを実現すべく、インターシップを経て「杢巧舎」へ。これまでに手がけてきた家の雰囲気の良さと、親方の、「長く住み続けられる家」への強い思いに共感したとか。

「インターンとして初めて参加した『杢巧舎』の現場で目にしたのは、表面に傷がつかないよう、一本一本、きれいに紙が巻かれた材でした。その気遣いに感動したことを覚えています。家造りって、こんな風に材やプロセスの一つ一つに真摯に向き合っていくものなんだって、そんなことを日々、学んでいます」

“力仕事”“厳しい”“暑い”、そんな過酷な職場環境を連想するのか、女性大工はまだまだ少ない業界だ。おまけに、せっかく技術を身につけても結婚や出産を機に仕事をやめてしまう女性大工が多いとも。やりがいも達成感も味わえるこの仕事を、ライフステージが変わっても続けていきたいと高橋さんは考えている。

「一生、現場にいることは難しいかもしれません。その点、『杢巧舎』は設計、材の選び、刻み仕上げから現場管理まで、自分たちで担う役割が多いので、さまざまなスキル、経験を積むことができます。そうしたものが身についていれば、ライフステージが変わってもなにかしらの形で家造りに携われる。結婚しても、子どもができても、どんな形でもキャリアを続けられるような、そんな生き方・働き方を模索しています」

一方、親方の木村さんは現場における女性の可能性を高く評価している。
「実は体力やパワーを要する仕事はそれほど多くないんです。必要なのはパワーよりもむしろアタマ。材の墨付けに三角関数は必須だし、作業工程やそれぞれの順序をいかに効率よく組んでいくか、段取りのよさも問われます。男性、女性は関係ないんです」

一般の工務店では恒常的な人材不足が叫ばれているが、伝統工法の業界では大工のなり手はむしろ増えつつあるという。男性も女性も関係なく、若手の大工がやりがいを感じ、長く働き続けられる環境とは。住み手に感謝される家とは。資源が循環し続ける家とは。これからの建築のあり方を、いまいちど考える時期にきているのかもしれない。
「女性大工としてではなく若手の大工として、未来を担う次世代がどんどん入ってくる業界になってほしいと思います。そのためにも、年齢・性別に関係なく働き続けられる環境をみんなで考えていければいいですね」(高橋さん)

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