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里山生活学校で学んだ自然と人間の関係

伊藤 智子  /  2010年11月25日  /  読み終えるまで6分  /  アクティビズム, コミュニティ

作業に専念する伊藤。間伐した樹木は材として活用される。写真:伊藤 智子

里山生活学校で学んだ自然と人間の関係

作業に専念する伊藤。間伐した樹木は材として活用される。写真:伊藤 智子

インターンシップ・プログラム」を利用することで、パタゴニアの社員は有給を得ながら環境保護団体で活動する機会を得ることができます。日本支社でもこれまでに多くの社員がこのプログラムを利用してきましたが、今年はリペア部門の伊藤智子が7月から10月にかけて計160時間、岩手県奥州市にある<里山生活学校>で、里山整備や農園支援の活動に参加しました。

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<里山生活学校>は里山の保護・保全を目的に、「命の糧が生産出来る場」、「人間と多くの動植物との関係を学べる場」、そして「さまざまな知恵、技術を持った仲間が集まり情報交換をする場」として、里山資源を活用して育てる団体です。この団体の目的と熱意に賛同した私は、インターンシップ・プログラムを利用して里山整備と農園支援活動に参加しました。

朝7時半。朝食を済ませて作業に出ると、すでに小屋に羊たちの姿はなく里山に放され、群れになって一心不乱に草を食べています。人間が作業していると好奇心を見せて近寄ってくる羊たちは、この里山のシンボル的存在です。彼らは無秩序に放されているわけではなく、草が伸びる時間を確保するために、6ヘクタールの里山を数か所に区切ったまきばへ順繰りに羊を放す「輪牧」という方法が取り入れられています。羊たちは私たち人間が分解/消化できない草を食べて肥料に変えるだけでなく、種子を散布する役割も果たし、さらに毛(ウール)を提供してくれます。私たちは草地に樹木を植えて暑さに弱い羊のために木陰を確保し、夏は干し草をマンサード屋根の小屋に、サイロにはサイレージ(飼料)を貯蔵して冬の餌を確保します。このような羊たちとの協力関係は、里山で繰りかえされてきた人間と自然との共生の姿のほんの一例にすぎません。

里山生活学校で学んだ自然と人間の関係

羊は草刈りに精を出す。写真:伊藤 智子

かつてこの地域に暮らしていた人びとは、里山から最低限の資源を手に入れ、活用しながら育てる過程を繰りかえすことによって、循環型ライフスタイルを実践してきました。その資源とは、食料、材料、衣料、肥料、飼料、塗料、染料、とじつにさまざまな糧であり、活用するプロセスのなかで健康や充足感、家族や地域の団結といった副産物を得られる場でもあります。また人間が生産物を得るだけでなく、水や大気の浄化、動植物の生態系維持、災害防止といった機能もあり、風景そのものや古来の知恵を文化的価値と捉えることもできます。しかし、経済性や効率性、利便性といった数値評価ばかりが重視される現在の社会においては里山の価値は見捨てられ、資源として活用される機会はめっきり減ってしまいました。植林された杉や檜は手入れされず、痩せ細って材の役目を果たさない、季節感の乏しい森が拡大されています。笹や茨は手を拡げて人間の山への出入りを阻み、繁茂した蔓性の藤や葛は樹木の生長のじゃまになります。周期的な間伐がされない森のなかには日差しが届かず、落ち葉かきや下草刈りをされない大地は、新しい生命の芽吹きの妨げにもなります。人間が手入れをすることで支えられていた里山生態系のバランスは崩れ、かつての生物の多様性が日に日に減っているのが現状です。

里山生活学校は、「里山を活用できる状態に維持する活動」、「里山の恵みを知り記録する活動」、「里山に集い楽しむ活動」、「里山の恵みを活かし生産する活動」 という4本の柱から成り立っています。多岐にわたっていますがいずれも里山の生活に一体化した内容であり、このライフスタイルでつねに里山と関わり合っていくことが、結果として里山そのものを守ることになります。インターンシップ・プログラムを利用して計4週間、里山で実際に生活しながら学校のさまざまな活動に参加することにより、私はその現状を把握し、有用性を十分に理解することができました。最終日には集い活動の一環として、4~5歳児の里山遠足というはじめての試みが予定されており、私たちはこの日を目標に山の整備を進めていきました。まず蔓を取り払い、必要な樹木を残しながら間伐。そして伐採した木や枝、蔓を山の下まで降ろしながら、熊手で枯れ葉や小枝を適度にかき下ろしていきます。落ち葉かきをしていると腐葉土のふんわりとした香りが漂い、山が生きかえっていくように感じました。

里山生活学校で学んだ自然と人間の関係

間伐した樹木を利用した遊具で自然と遊ぶ子ども。写真:伊藤 智子

遠足当日の子どもたちのはしゃぎようは私の想像を越えるものでした。走りまわったり、転んだり、ジャンプして溝を越えたり、羊に桑の葉をやったり、焚火に枝をくべたり・・・はじめての里山体験を十分に楽しんでいました。里山から伐り出した木を使って作ったいくつかの遊具は、里山をテーマパークや公園のようにしてしまうのではないかという危惧もありましたが、幼い子どもたちの自然とのふれあいには適切な役割を果たしていました。間伐によって現れた、かつて利用していた山道に子どもたちと一緒に入ると、視線の低い彼らはみずから道を見つけ出しては奥へ奥へと冒険し、どんぐり、山栗、蝉の抜け殻など、たくさんの里山の宝を集めて楽しんでいました。それらは社会の画一的な数値評価にまだ捕われていない子どもたちだからこそ、価値として認めることができるものなのかもしれません。里山の再生には長い時間が必要です。世代を越えて保全していくために、子どものころのこうした体験はとても重要です。テレビや教科書からは得られない匂いや感触、パノラマ的な視野、農村生活そのものを体験することにより、子どもたちの五感と生命観が育まれ、自分自身が生態系の一部であることを実感することができるでしょう。里山に潜在する価値と可能性を無意識の内に認めている彼らの姿を目の当たりにした時間は、この空間を身近で有用な場所として残していかねばならないという思いを強くする貴重なものとなりました。

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森林とつながり里山を形成する有機農業環境。写真:伊藤 智子

森林から、草食動物が放牧される草地、大地と太陽の豊かな恵みをもたらす畑、水を湛えた溜め池と田んぼ、そして人が働き憩い休息する姿までがゆるやかにつながる里山という素晴らしい空間。この概念は「SATOYAMA」という国際的な用語で表現され、人と自然の友好的な共存を目指す取り組みがグローバルに広がりつつあります。その必然性を実感するためには、里山に実際に身を置き、生活のなかで恵みの活用に携わる行動が最も有効と言えるでしょう。

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