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サクラマスにとっての最後の砦、サンル川を訪れる

 /  2010年12月9日 読み終えるまで7分  /  アクティビズム
サクラマスにとっての最後の砦、サンル川を訪れる

2009年から開始したパタゴニア日本支社独自の環境キャンペーン「フリー・トゥ・フロー – 川と流域を守る」の取り組みのひとつとして、(財)日本自然保護協会主催、パタゴニア日本支社協賛による「もりかわうみ・いきものバンザイツアー」が9月に開催されました。

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場所はサクラマスの産卵期を迎えた北海道天塩川水系サンル川。ヤマメ湧く川。今回のツアーの講師兼ガイドを務めてくれたのは、<北海道の森と川を語る会>代表の小野有五さん。現地への見学会を開催し、サンルの自然の魅力を伝えつづけている。「天塩川は黒澤明監督の『デルス・ウザーラ(ビギン川のほとりで)』にあるような大陸的な感じのある川で、僕はこの川が大好きです」 北海道北部を悠々と流れて日本海に注ぐ、道内では石狩川に次いで2番目を誇るその川は、支流に名寄川をたずさえ、そしてそのまた支流のひとつがサンル川である。「サンル川の源流部まで200キロメートル、ダムや堰などの人工構造物はまったくありません」と小野さんはつづけた。

サクラマスにとっての最後の砦、サンル川を訪れる

サクラマスのふるさと、北海道サンル川支流

このサンル川に国土交通省北海道開発局が高さ50メートルのダム建設を計画している。けれども2009年に国の事業見直しを受けて現在は凍結中であり、ダム本体は着工されていない。ダムは名寄市と下川町へ水道水供給、発電(利水)、洪水調節(治水)といった多目的ダムとされているが、その必要性や有効性には疑問の声も多い。2010年9月27日に前原前国土交通省大臣が設置した「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の取りまとめ発表をうけ、全国のダムの検証が進められており、自然保護団体などは第三者機関により客観的科学的に検証を行うこと、ダム問題に取り組む市民団体とダムを推進してきた事業者が公開の場で意見交換をし、治水代替案など再検証することなどを求めている。サンル川もそのひとつである。

サクラマスにとっての最後の砦、サンル川を訪れる

ヤマメのから揚げ。写真:中西 悦子

このツアーでの最初のヤマメとの出会いはバスのなかだった。大皿に山盛りの唐揚げ姿で、衣からパーマークといわれる体の側面上下に長い木の葉状の斑紋模様がうっすら透けている。もうひとりのガイド役を務める地元で活動する<下川自然を守る会>の宮田修さんの差し入れだ。その姿を観察するのもつかの間、渓流の恵みを口にいれた一同の口から出たのは「美味しい!」 ヤマメの唐揚げに舌鼓をうつあいだに、バスは道の行き止まりである現地に到着した。最初に目に入ったのは不自然な構造物と「調査用魚道について」と書かれた看板。その横でさっと借り物のウェーダーヘ脚をとおし、宮田さんのあとにつづいていく。秋の森のにおいが立ち込めるなか河畔林が川面にかぶるように生え、山間の沢筋が集まって、その小さな支流をつくっていた。町内面積の9割が森林という豊かな自然環境にはクマゲラやヒグマが生息し、フンや爪あと、そして川筋に姿を見せる鳥や動物たちのようすもうかがうことができた。最初に訪れた一の沢はサンル川に注ぐ砂防ダムもない渓流のひとつで、川岸から偏光レンズのめがねでのぞくと、透きとおった水の流れのなかをたゆたうサクラマスの姿が見える。本流へ移動して川を渡ると、いくつもの産卵床を確認した。産卵のために川床の石や砂を掘り上げるため、まわりよりも小さな砂利が積もる。下にあった石は藻類の付着がなく、まわりの川底よりも白く明るく見えることから、その存在を知ることができる。

サクラマスにとっての最後の砦、サンル川を訪れる

サンル川での観察風景。写真:北海道の森と川を語る会

サンル川には毎年1,000~4,000尾程度の天然のサクラマスが遡上し、自然産卵を行っているという。卵から孵化すると1年間を川で過ごし、オスの半分とメスは特徴でもあるお腹のパーマークが薄れて体全体が銀色に帯びて来ると、海へ下るサクラマス(降海型)の幼魚となる。またオスの半分は川に残り、ヤマメ(残留型)となって、同じ魚でもここからは別々の生活を送る。海の養分を摂取した親魚サクラマスが河口から遡上して支流である名寄川、さらに支流のサンル川上流部まで200キロメートルをのぼっていって産卵することのできる環境は、いまや日本の河川環境において稀有で、サクラマスにとって最後の砦となっているという。サケは3~4年の生涯のうち河川での生活期間は8~9か月、一方サクラマスは、3年の生涯のうち2年間は生まれた河川で生活する。ヤマメは3年間という一生を川で暮らす。サクラマスは自然河川に依存しなければ数の維持はできない、と宮田さんは言う。ダムが建設されると、ダムの貯水によりこの産卵環境そのものが奪われる。開発局側は保護策である魚道を設置するとして調査をすすめるが、山の斜面のジグザグの上り100段、9キロメートルという迂回路を果たしてどれほどの数の魚たちが上るのだろうか。親魚の遡上阻害はもちろん、流れのないダム湖で方向感覚を失うといった幼魚の降下阻害など、地元市民団体や専門家からは河川環境や生態系への影響が大いに懸念されている。

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カワシンジュガイ。写真:自然保護協会

川の状態を示すひとつの指標として、サンル川には年齢80~100歳にもなる大粒の二枚貝、カワシンジュガイが生息する。川底にからだを立てているその貝を子どものように魅入っていると、箱めがね下をヤマメが流れに頭を向けて泳いでいく。カワシンジュガイはヤマメと共生関係にあり、幼生はヤマメのエラやヒレに付着して移動する。河川改修やダムの開発により、かつて日本海側を中心とした山間の渓流域にごく普通に生息していた二枚貝が、その数を減らしつづけている。河口から渓流までの連続性が確保された河川環境と豊富な遡上性魚類によって、この貝類の世代交代と分布拡大が保たれていることがわかる。こうしたつながりは自然遡上/産卵があってこそ維持されるもので、分断された川ではこの関係も絶たれてしまう。川の連続性がいのちを繋いでいるのだ。

帰路、ダム建設により水没予定となる地区の緊急遺跡発掘調査地に立ち寄ると、針葉樹と広葉樹の混ざった森に囲まれたごく小さな流れ、伏流水にぽこぽこと気泡の粒が沸きあがっていた。桜色がかった婚姻色の親魚が背びれを水面から出すほど何匹も、直径10センチメートルもあるかと思われる川石を尾ビレで勢いよくはね上げている。ダムができれば水没してしまうその場所に、幾度となく繰りかえされてきた命の営みはいまもたしかにある。ダムができなければ、これからもその営みは繰りかえされることだろう。

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日本で4番目の長さを誇る雄大な天塩川 。写真:中西 悦子

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