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土壌再生をめざす大豆

小川 彩  /  2024年3月12日  /  食品

大豆畑の時空間に広がる、土壌の再生をめざす農業の取り組みとは。

リジェネラティブ・オーガニック農法から誕生した味噌

パタゴニアが食の分野にもビジネスを広げた「パタゴニア プロビジョンズ」が2016年に日本でローンチされて以来、故郷である地球を救うために食品の販売だけでなく、日本国内の生産者の協力を得てオリジナル製品を作ることに取り組んでいる。

今春発売する「オーガニック味噌」は、畑地における日本初のRO認証を目指して協同している農業者が生産した大豆を加工した製品である。

背景には、オーガニック農業の次のステップとしてRO農業を日本で推進し、環境・気候危機を改善させていくねらいがある。現在、地球上で人間が居住可能な陸地の約45%を農用地が占めており、農業や日々の食事の変化が環境に与えるインパクトは大きい。ROとは、パタゴニアも設立に参画しボードメンバーを務める、ROアライアンスが策定した認証制度に基づく基準である。オーガニック農業を実践した上で、気候変動を抑え適応もできるように土壌の健康を高めることや、動物福祉を向上させること、労働者に経済的安定と公平性をもたらすよう、全体論的な農業の実践を推進することを目的とした認証設計になっている。

「オーガニック味噌」に使われる大豆は千葉県匝瑳市飯塚地区の地元の農業チームを中心に、パタゴニアや共同研究チームが協同し、有機農業に不耕起管理を取り入れたRO農法の実践づくりを進めている。

ソーラーシェアリングによる営農からスタート

パタゴニアが投資するソーラーシェアリングの立つ大豆畑は、匝瑳市の雑木林や古墳も残る丘陵地を造成した土地に位置する。 この土地でソーラーシェアリングを行うようになった背景について、地元で代々農家を営む市民エネルギーちば株式会社(以下みんエネ)共同代表の椿茂雄さんはこう説明してくれた。

「1980年ごろ頓挫したゴルフ場誘致用地80ヘクタールを県の圃場造成事業で地権者にも造成費用を一部負担してもらいながら畑に造成したんです。当初は盛んだったタバコ栽培が衰退後、大企業がキャベツ畑として使う話もありましたが、畑が痩せていて水はけも悪いことで実現せず、耕作放棄地が広がっていきました」 椿さんが太陽光発電に興味を持ったのは20年以上前のこと。自宅に設置したり、太陽光発電所に関する地域交流会に通う中で、現・みんエネ共同代表の東光弘さんとのつながりを得た。

25年近くオーガニック農業と食品販売に携わってきた東さんは、2011年東日本大震災(以下震災)をきっかけにエネルギーと食料を市民が安全につくることのできる状況を模索していた中で、ソーラーシェアリングの発案者と出会い、市民発電所をつくろうと一念発起。2014年に椿さんとともに会社を共同で設立し、飯塚地区で事業化していった。

ソーラーシェアリングによって生まれた新たなコミュニティ

もともとソーラーシェアリングは営農型太陽光発電といわれるように、発電効率よりも農業の生産性を最優先に考えた仕組みである。従来のパネルと比較して細型なので、地表に投影される影は小さく弱くなり、雨垂れによる浸食も小さい。環境負荷の少ない事業を目指していた椿さんと東さんは、地元で有機栽培の稲作と野菜づくりを営む佐藤真吾さんと仲間に、ソーラーシェアリングの下での営農を依頼した。

「震災直後に東京電力福島原子力発電事故が起きて、何かアクションを起こしていきたいと思っていた中、この話をいただきました。ソーラーシェアリングと農業の組み合わせが何かしらの解決につながるのではと思い、仲間とともに営農チームThree Little Birds合同会社を2015年に設立しました」
佐藤さんは現在家族で営農されている自身の農地のほか、みんエネのソーラーシェアリングの下の畑圃場の管理を仲間たちとともに手がけている。

事業を開始して間もなく、この地区で耕作放棄地となった余剰地6ヘクタールを引き取ってほしいという依頼があった。椿さんが考えたのは、土地の力を回復させながら農業を持続させていくためには、農業以外の収入が必要だということだった。ソーラーシェアリングの下の営農であれば採算をとることができるし、農業が持続することは活力のある地域社会につながる。椿さんは2021年、みんエネスタッフの山内猛馬さんと株式会社匝瑳おひさま畑を設立し、この余剰地を購入して営農を行うと同時に、今後高齢化に伴って増えていく耕作放棄地の課題に対応するため、ソーラーシェアリング事業を基盤とした新しい「ハイブリット農業」と営農者、農業経営者の育成を視野に入れている。

不耕起栽培への挑戦

2018年からみんエネのソーラーシェアリングに出資したパタゴニアとの交流と信頼が強くなり、椿さん、東さん、そして佐藤さんはじめ、匝瑳市のコミュニティとの関係を深めてきた。そしてRO認証取得に向け、その通過目標として営農手段としてのRO農法の実現、ヘクタール規模での大豆の不耕起栽培の協同をパタゴニアに提案されたとき、佐藤さんは「その先の未来」が見たいと思った。

「不耕起栽培は、自然農法家・福岡正信さんの著書『わら一本の革命』を読んだ有機農家であれば、やってみたくなるものです。雑草との戦いがより厳しくなりますが、トラクターを使って耕さないことで化石燃料を多く使わなくてよいこと。耕さないから土壌の構造を保つ土壌動物・微生物が生息でき、植物の光合成と土壌生物の活動によって炭素が土壌中に固定されるので、気候変動の解決策に繋がる。手がける意義があります。前例のない取り組みだったので大きな挑戦でしたが、私たち農家だけでなく、研究者、パタゴニアのROリサーチ担当の木村さん、そして匝瑳市でソーラーシェアリングに関わるさまざまな方たちがいるから実現に向けて踏み出せました」

2020年パタゴニアとの縁で茨城大学の小松﨑将一先生の協力を得ることができ、2021年から佐藤さんたちは、ヘクタール規模での大豆の不耕起有機栽培の実践に向けて一歩を踏み出した。小松崎先生は、2002年からすでに20年以上不耕起とカバークロップを活用した栽培とその効果の実証研究を大学圃場で重ねている、国内における不耕起有機栽培研究の第一人者の1人だ。

最初にして最大の課題は、やはり雑草の管理だった。

初年度の2021年夏、小松崎先生が茨城大学の圃場で長年にわたり試行錯誤して実践してきた農業機械やアタッチメントの組み合わせ、播種方法、そして除草方法を頼りに、大豆の不耕起有機栽培を進めた。除草作業は、市販の刈刃カバーをつけた電動刈払機を複数台用意して、パタゴニアスタッフのボランティアによる人海戦術で行なった。たまたま大豆の前作に麦を栽培していたこともあり、表土を覆っていた麦わらによる有機物マルチによって雑草が抑制されていたため、大豆栽培は意外にも成功した。ビギナーズラックのように、初年度の大豆の不耕起有機栽培は、おおむね満足のいく結果が得られた。

しかし、2年目の2022年は大苦戦した。15ヘクタール以上の畑地を管理しているThree Little Birds合同会社が営農手段として不耕起有機栽培を行なうためには、効果的かつ効率的な雑草管理の仕組みを構築していく必要があった。そのため、神戸大学の庄司浩一先生を中心に、3条同時に除草できる電動の試作除草機を作製し、条間除草の作業効率向上を図った。しかし、大豆の生育と除草のタイミングをうまくコントロールすることができず、大豆の収穫を断念し、次の麦栽培の準備に切り替えざるを得なかった。

ところが同年、同じ栽培管理を行なってもうまく雑草をコントロールできた圃場もあった。従来通りの耕す有機栽培と比較しても遜色ないどころか、この地区で管理している大豆圃場のなかで最も反収が高かったのだ。これらの要因を分析した結果、圃場の土地履歴の違いや前作に何を栽培したかが大きく影響していることがわかった。特に、植物の生育が盛んな夏に不耕起有機栽培で大豆を栽培するためには、雑草を抑制するための分解しにくい有機物マルチをたくさん形成する作物(匝瑳の事例ではムギ)の栽培が重要であることがわかった。

2年目の失敗と成功した圃場との比較は、とても重要な分岐点になった。不耕起有機栽培の管理はその栽培期間中に圃場で目に見える空間だけを意識すればよいのではなく、前作を含む時間スケールも組み合わせて、時空間的に合理的に栽培体系をデザインすることが重要であるとの認識にいたったからだ。特に有機農業に基づく不耕起管理は、土壌や圃場環境を耕起や農薬でリセットすることはできず、前作の影響が農地の「遺産効果」となるため、輪作体系は基盤的技術として重要である。そして、RO認証の1つの要件として輪作が設定されていることの合理性に、改めて気づいた大切な年となった。

3年目の2023年はこれまでの歩みをもとに、試作除草機のさらなる改良、播種直後からの条間除草の高頻度での実施、大豆栽培の前にムギを栽培する輪作体系の採用、お盆過ぎに株際から伸びてくる大型雑草の刈り取りなどを徹底した。機械による株間の除草が直接できないため現時点では人手に頼っているが、年を追うごとに収量が安定的に確保できる兆しが見えてきた。

匝瑳での土地利用型作物である大豆(と麦)の不耕起有機栽培は、まだ3サイクルを経験しただけで、栽培体系としては発展途上にある。面積当たりの収穫量(収量、10アールあたりで表記)の向上だけでなく、管理できる栽培面積を広げていく取り組みも重要だ。不耕起栽培の3年目を終えて大豆の収量は、全国平均や千葉県のそれと比較して、同等以上の実績を得ることができた(※)。また、この取り組みにおける2023年産の有機大豆収穫量は823.5キログラムだった。この実績は「その先の未来」の入口にすぎないが、農食の分野や社会全体に対して、実体に基づく新しい風となるだろう。

(※)
ソーラーシェアリング支柱際の非作付け面積を含む2023年産反収:117.3 kg/10a
ソーラーシェアリング支柱際の非作付け面積を除き、露地での一般栽培と条件を揃えた場合の2023年産反収:198.0 kg/10a

参照:比較対象例(慣行栽培などを含むデータ)
■2022年産全国平均反収:160kg/10a
農林水産省統計データ

■2022年産千葉県平均反収:123kg/10a
千葉県統計データ

日本でのRO農業モデルの事例づくりへ

小松崎先生と庄司先生の研究チームとの協同の歩みによって、東さんや椿さん、佐藤さんたちも不耕起での有機栽培の将来性を確信している。不耕起有機栽培に取り組んでいることによるこれらの圃場の土壌変化については調査中であるが、2002年から続けている小松崎先生の大学圃場においては、不耕起栽培とカバークロップを組み合わせることによって、年間1ヘクタールあたり0.6トンの炭素が土壌に蓄積し、それとともに土壌微生物(バイオマス)は20%増加、土壌動物(バイオマス)は10倍以上増加、団粒構造が発達して保水力が高まった(不耕起栽培の土壌は、耕起栽培と比較して、1ヘクタールあたり40トン多く水を確保できる)ことが示されている。

小松崎先生は「ROの枠組みに沿った栽培管理の実践は、土壌そのものの肥沃度を向上させるだけでなく、保水力の向上などによって環境の変動(例:ゲリラ豪雨や季節を通じての少雨など)に対しても抵抗力のある土壌になるといえます。多くの消費者は農林水産省が定めた『みどりの食料システム戦略』の方向性に賛同していて、それは農業システムが環境を保全し、再生させる役割を担ってくれることを希望するあらわれだと思います。有機農業といってもやり方は多岐にわたるため、なかには環境保全や再生には当てはまらない場合もあるのですが、RO農法においては実践イコール環境保全・再生になるのが特色だと思います」と評価している。

匝瑳市飯塚地区では、農業経営が成り立つソーラーシェアリングとRO農業によって造成地や耕作放棄地の回復を図り、環境に良い影響を与えながら持続できるモデルを、さまざまなプレーヤーの力によってつくり出そうとしている。

パタゴニアのROリサーチ担当の木村さんは、匝瑳市でのこの3年間の歩みと進展を振り返るとともに、これから不耕起有機栽培の経営面積を戦略的に増やしていけるように、その栽培技術体系の成功確度を高めていきたいと展望を語った。
「日本でRO認証の取得を目指す生産者を増やすだけでなく、RO農業のアクションに参画していただくことで社会変容に繋がるような、そんな全体論的なシステムの構築に参加する人たちと協同の輪を広げていきたいです。それが『故郷である地球を救う』というミッションを達成するために農業分野から起こせるアクションとして重要だと考えています」

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