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田んぼからはじまる、地球再生のストーリー

君島 佐和子  /  2025年11月26日  /  食品, 環境

自然酒「やまもり」、日本初のリジェネラティブ・オーガニック認証の背景と今後

写真:寺澤 太郎

仁井田本家が醸すパタゴニア プロビジョンズのオリジナル自然酒「やまもり」が、日本初のリジェネラティブオーガニック(RO)認証品となった。RO認証の定義に水田稲作に関する要件が新たに加えられての認定である。その意義は大きい。当たり前すぎて見失いがちな里山景観に潜む水田の意味と価値に光を当てるものだからだ。米騒動のおりから日本の稲作の行方が取り沙汰されるが、RO水田稲作は、生産性重視の近代農業と比べれば一見遠回りに見える。しかし、気候危機が顕在化する今、地球再生を最大の目標に据えたそのあり方は、未来に対する確かさを優先した急がば回れの農法と言えるのではないか。

世界と日本をつなぐ新たな定義 RO水田稲作
そもそも、ROは、欧米の畑文化圏で立ち上がった背景から、畑地を前提に構築されている。世界の作物生産農地の約91%は畑地で、水田はわずか9%、水田の多くがアジアモンスーン地域に集中しているという比率と分布からすれば、当然かもしれない。しかし、畑地と水田では、水資源をはじめとする農地管理のあり方が根源的に異なる

日本の農地は半分以上が水田だ。はたして畑地の理論は水田に適応されるものなのか? 日本でRO農業を推進するにはRO水田稲作の定義が必要であると、パタゴニア日本支社のメンバーは考えた。日本のみならず、食料生産の主軸を水田稲作に置くアジアモンスーン地域に共通する論点でもあろう。生産者や大学の研究者たちとともに検証を進め、どんな要件が必要なのか、事例や議論を重ねていったという。

ネイチャーポジティブな視座が導く優先順位
RO水田稲作の要件を考える上での根幹が、水田のなりたちである。日本の水田は、山の水が集まる谷合いや川が氾濫してできた湿地など、地形や自然環境を巧みに利用して形作られてきた。水源となる川や林や山と連なって機能し、ため池、江、土水路など多様な水域ネットワークの上に成立する、すなわち周辺環境と一体的な水田システムがある。それは、農地としての生産機能だけでなく、田んぼダムのように自然災害に対してもレジリエントな機能を発揮し、国土保全の基盤としての役割を果たす。また、田んぼとその周りの水域環境、畦畔や森林などの陸域環境、両方が複雑に入り組んだ複合的な土地利用が、数多くの種の生き物の集まる豊かな生態系を育んでいる。長い年月をかけて紡がれた自然構成員の共存共栄が示すのは、水田稲作が自然に根差した農法であること、ROが掲げる「自然が意図した農法」との親和性と言っていいだろう。

水田生態系とも呼びたくなるような田んぼをめぐる様相は、「生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せる」ことを意味するネイチャーポジティブという言葉を思い起こさせる。ネイチャーポジティブは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」との対比として浮かび上がる。

昨今、水田には、温室効果ガスであるメタンガス発生源としての風当たりが強い。中干し実施期間の延長(中干しは水田から水を抜いて土壌を乾かす行為。メタンガスの発生を抑える効果がある)などの回避策も行なわれているが、それはそれとして進めつつも、自然環境と一体的に存在・機能する水田に対しては部分的に切り取った対症療法ではなく、全体論的な根本療法がふさわしいのではないかと思えてならない。ネイチャーポジティブを満たしていけば、自ずとカーボンニュートラルも回復に向かうというのが、国際社会のコンセンサスとの意見もある。何より、水田が育む生物多様性を他の産業で代替することはむずかしいと気付くべきだろう。

300年の伝統とグローバル基準の融合
ここまで語ってきたような水田稲作の営みを、「やまもり」の醸造を担う〈仁井田本家〉に見ることができる。福島県郡山市の中山間地域に6ヘクタールの自社田と50ヘクタールの山を持ち、契約農家とともに農薬や化学肥料を使わない米の栽培に取り組みはじめたのが1965年。「日本の田んぼを守る酒蔵になる」をモットーに、2009年には農業法人〈仁井田本家あぐり〉を設立して、自分たちでも実践する。今回RO認証を取得したのがまさに〈仁井田本家あぐり〉とその水田。稲藁、籾殻、酒粕などで堆肥を作って戻す循環型の土づくりに挑む田んぼには、コサギ、アオサギなどの水鳥、ドジョウやカエル、そしてトンボ、ハチ、アブなどの昆虫など、多種多様な生き物が集まる。

パタゴニアと〈仁井田本家〉は、2021年にRO認証取得に向けた協同をスタート。並行して、〈仁井田本家〉の環境を調査・研究の対象としてきた金子信博氏とも連携しながら、〈リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス〉にモンスーンアジア地域にも通ずる水田稲作に関する要件の策定を働きかけた。世界的に見れば、時間的にも空間的にも壮大な水田の文化を持つ国は少数派と言える。歴史に裏打ちされた水田の持続可能性や、水田が育む生態系の豊かさ、精神文化の深さを世界に紹介していくことは、水田と畑地、両文化を持つ日本の役割だろう。RO認証に加えられた水田稲作向けの要件は、グローバルに通用するよう構成されている。

サプライチェーン全体で守るフェアな関係
RO認証では、「土壌の健康」「動物福祉」「社会的公平性」の実現のため、土壌、植物、動物、人間など地球の構成要員すべてが健全に機能することが求められる。仁井田さん夫妻が改めて意識を払うようになったのが「社会的公平性」であり、従業員の労務環境や待遇だったという。蔵人の声を聞き、彼らが働きやすいように労働環境や勤務体系を整えると同時に、給与もリビングウェイジ(生活賃金)を基準にと心を砕く。

「社会的公平性」が求められるのは、認証を付与された〈仁井田本家あぐり〉に限らず、生産から販売までサブライチェーン全体でその理念を守らなければならない。パタゴニアとの関係性においても適応され、ブランドオーナーと生産者の関係が搾取構造にならないように制度として組み込まれている点がRO認証の先進性だろう。

ここ数年、「リジェネラティブ」という言葉をよく目にする。コロナ禍のトンネルを抜けると、時代のキーワードが「サステナブル」から「リジェネラティブ」へと置き換わっていた――そんな感覚がある。「regenerative=再生・回復させる、修復する」とは、語義的に考えて、実践と効果に重きが置かれる概念であろう。「リジェネラティブ」をスローガンに取り入れた活動体と出会うとできるかぎり「何をもってリジェネラティブを名乗るのか?」「何を、どんな方法で、どんな状態に再生・回復させるのか?」と尋ねてみるが、具体的な方法論はなく、イメージとしての「リジェネラティブ」というケースが多い。実践のビジョンなのか、イメージの醸成なのか、「リジェネラティブ」を名乗る所以を、書き手としては確認する必要があると感じる。

その点、地球修復のための方法論であるRO認証は、実践のハードルが高い。だが、自然生態系とのつながりが深い伝統的な水田システムとの近しさに着目すると、これこそが日本の農地の特性が生かされる道筋に思えてならない。いま一度、「自然が意図した農法」を自分たちの足元に見出していくことが、地球再生に向かう手段であると「やまもり」は教えてくれる。

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